私の会社では、あるページに時期を変えて2本の広告を流しました。ページは一文字も変えていません。登録してくださった方の割合は、1本目が2.8%、2本目が15.2%でした。

登録が伸びないとき、多くの経営者はまずページを直そうとします。見出しを変え、文字を大きくし、デザインを整える。私もそう考えていました。ところが、自社のMeta広告(FacebookとInstagramの広告)を45本すべて並べてみると、ページを作り直しても登録率はほとんど変わらず、手前の広告を変えたときに大きく動いていました。

この記事では、その45本をどんな条件で数えたかも含めてお見せします。前半はよく登録された広告の1行目に共通していたことです。後半は、それでも1行目だけでは足りなかった理由、つまりお客様が広告に出会ってから相談に来てくださるまでの流れの話をします。

自社の広告を45本並べてみた

i-SHOTは2025年11月から2026年9月までに、経営者の方に向けてMeta広告を出してきました。配信の実績がある45本すべてについて、1行目の文章、見出し、画像や動画、飛び先のページ(LP)を取り出し、登録率を比べました。

ここでいう登録率は、広告から飛び先のページを開いた人のうち、メールアドレスを登録してくださった人の割合です。

机の上に並べた広告の原稿とチラシ。赤ペンと付箋の書き込みがある
45本を1行目から1本ずつ見比べた 見出し・本文・画像・飛び先のページまで、配信の実績がある45本をすべて取り出しました。

どんな条件で数えたか

数字をお見せする以上、先に数え方をお伝えします。条件の違う数字を並べても、比べる意味がないからです。

対象i-SHOTの経営者向け広告キャンペーン2つで、配信の実績がある広告45本。配信期間は2025年11月〜2026年9月
届けた相手日本・日本語で、事業主や経営者の役職に関心がある方を中心にした配信。9月の配信では、広告費の99.4%がスマートフォンのアプリ内で使われ、55歳以上の方が67%でした
登録率メールアドレスの登録数 ÷ 広告から飛び先のページ(LP)が表示された回数
登録数自社の登録名簿(UTAGE)で1件ずつ数えた数。Meta側の登録の計測は約3割少なく出るため使っていません。社内のテスト登録は除きました
表示数Metaが計測した飛び先のページの表示回数
比べ方配信の目標(最適化の設定)が「登録」のものだけを並べました。目標の違う配信(同じ話の別の動画・2.2%)は、目標も動画も違うため比較から外しています
揺れの幅各登録率に、たまたまの揺れを考えた95%区間(Wilson法)を添えました
中身の確認45本すべての見出し・本文・ボタンを取得。画像18枚はすべて目で確認。動画15本のうち4本はコマを並べて確認し、残り11本は権限の都合で中身を見られていません
ページ今も公開されている6ページをスマートフォン幅(390px)で実測。配信した当時から手直しされている可能性があり、見た目の比較は「今の姿」での比較です

そのうえで、この分析で言えないことが4つあります。

  • 1つの組み合わせあたりの登録数は3件から30件です。私の会社では、1つの組み合わせで登録が30件ほど集まるまでは、差を言い切らないことにしています
  • 組み合わせによって配信した時期が違います。季節やほかの広告主の出稿の量はそろっていません
  • これは条件を変えて試した実験ではなく、実際に出した広告をあとから並べた観察です。1行目のほかに、画像・見出し・飛び先のページも同時に違っています
  • 登録のあと(相談の予約・ご契約)はさらに数が少なく、傾向として読むのがやっとです

1行目の書き方ごとの登録率

この条件で1行目の書き方ごとに並べると、次の図のようになります。

「社員は、ジョブスの指示をすべて守った。しかし、かつてのApple製品は売れなかった。」

16.9%11/65

7月・区間 9.7〜27.8%

「ある経営者は…物語にして、従業員に見せました。従業員は、感動して泣きました。」

15.5%30/194

9月・区間 11.1〜21.2%

「エルメスは馬具屋でした。でも馬具を捨てました。」

12.3%18/146

12〜3月・区間 7.9〜18.6%

「お客様満足度向上を現場に任せたらお局が生まれる理由」

11.2%20/179

11〜12月・区間 7.4〜16.6%

「KPIマネジメントは包丁のように…」(たとえ話と手法の説明)

4.7%3/64

8〜9月・区間 1.6〜12.9%

「仕事は好きでも会社が嫌いなエース社員の本音」

2.8%3/109

3月・区間 0.9〜7.8%

「組織に『緩さ』や『停滞』を感じていませんか?」

1.9%5/269

4〜5月・区間 0.8〜4.3%

「仕事。それは…相手が望むものを届けるために仕えることだ。」

1.3%2/154

7月・区間 0.4〜4.6%

起きた出来事を書いた1行目は11〜17%、約束や説明は1〜5% 赤は第三者に起きた出来事から始まる広告、灰色は約束・問いかけ・説明・教訓から始まる広告。数字は登録数/飛び先の表示数、その下は配信した時期と95%区間。配信の目標が「登録」の広告だけを並べています。
ジョブスの傷跡の広告画像。今の経営判断でいいのだろうか、という見出しと、無料の分析レポートの表紙16.9% ジョブスの傷跡
従業員が泣いた広告の動画の表紙。社長が創った一つの物語を見て、と書かれている15.5% 従業員が泣いた(動画の表紙)
仕える組織の広告画像。経営者の仕事は、顧客に仕える組織をつくることだ、と書かれている1.3% 仕える組織
実際に配信した広告の画像 数字は登録率です。広告では画像と一緒に本文の1行目が表示されます。高かった2本の1行目は第三者に起きた出来事から、低かった1本は教訓から始まっていました。

区間を見ると、どこまで言えるかが分かります。赤の上位2本(ジョブス・泣いた)の区間の下の端はそれぞれ9.7%と11.1%です。灰色のうち「緩さ」と「仕える」の区間の上の端は4.3%と4.6%です。この2組は区間が重ならないので、たまたまの揺れだけでは説明しにくい差です。

一方で、「KPI」の広告の区間は1.6〜12.9%と広く、赤の広告の区間と重なっています。3件しか登録がないので、この広告が本当に低いのかはまだ言い切れません。ここから先の話は、はっきり差が出た組み合わせを中心に、それ以外は傾向として読んでいただけると幸いです。

よく登録された1行目の3つの共通点

よく登録された広告の1行目を並べると、共通点が3つありました。

主語が第三者になっている

「ある経営者は」「ジョブスは」「エルメスは」。1行目の主語は読んでいる経営者ご本人ではありません。自分のことを言われていないので、読み手は責められる心配をせずに、見ている側に立てます。

「なのに」「しかし」の意外さがある

「指示をすべて守った。しかし、売れなかった」「馬具屋だった。でも馬具を捨てた」。普通ならこうなるはずのことと逆の結果が、1行目に出てきます。そして、なぜそうなったのかはまだ書かれていません。答えがこの先にあると分かるので、続きを読みたくなります。

得は「起きた出来事」として出てくる

「社員が変わる」「お客様に選ばれ続ける」といった得はよく登録された広告にも出てきます。ただし、書き方は「こうなれます」という約束の形をとっていません。「ある会社で、こんなことが起きた」という出来事として書かれていました。いちばん登録された動画広告は本文が130字ほどで、手法の説明はひとつもありませんでした。

主語あなたの会社は

主語ある経営者は

書き方組織に緩さを感じていませんか? 3か月で自走する組織へ

書き方従業員は、感動して泣いた。でもその社員は、かつて会社を辞めたいと思っていた

答え先に言っている(自走する組織になれる)

答えまだ言っていない(なぜ泣いたのか)

1.9%と15.5%を分けたもの どちらも i-SHOT が実際に出した広告の1行目です。得の中身は近いのに、書き方の順番が逆になっています。

なぜ「こうなれます」は届かないのか

「こうなれます」が届かない理由を、私はいま次のように考えています。広告を見た人の心が動くには、3つのことが同時に起きる必要があります。

  1. 1予想が外れる読み手が当然だと思っていることと逆のことが起きる。外れないと目が止まらない
  2. 2その外れが自分のことだと感じるしかも、読み手の自尊心を傷つけない形で。他人事だと「へえ」で終わる
  3. 3答えがまだ手元にない答えがこの先にあることだけが分かっている。答えを先に言うと、続きを見に行かない
3つが揃うと続きを見に行く i-SHOT が自社の広告の実測から立てた仮説です。いまも数字を見ながら確かめています。

「組織に緩さを感じていませんか?」という問いかけは、2の「自分のこと」は満たしています。けれど、読み手の予想どおりの言葉なので、1の「予想が外れる」が起きません。しかも「3か月で自走する組織へ」と答えを先に言っているので、3の「答えがまだない」も起きません。

「仕事とは、相手に仕えることだ」という教訓も同じです。正しいことが書いてあっても、予想は外れず、自分のことにもなりにくく、答えも最初から書いてあります。

もうひとつ、私が大事だと考えていることがあります。お客様が買っているのは商品そのものより、「その商品を使っている自分」です。「うちに頼めば、こうなれます」は商品の説明です。「ある会社で、こんなことが起きた」なら、読み手は自分の会社に置き換えて、その先の自分を思い描けます。約束より出来事のほうが、読み手の頭の中で「自分の話」になりやすいのです。

読み手を責める1行目も届かない

意外な出来事なら、何でもいいわけではありません。

「仕事は好きでも会社が嫌いなエース社員の本音。実は上司の指示を無視していました」。この広告には意外さもあり、読み手の会社のことでもありました。飛び先のページも同じ話の続きになっていました。それでも登録率は2.8%にとどまりました。

社員の声で読み手である経営者の会社を責める形になっていたことが原因だと、私は見ています。「あなたの会社の社員は、実はこう思っている」と言われると、人は身構えます。身構えた人は続きを読みに来ません。

よく登録された「従業員が泣いた」の広告は、同じく社員の話でありながら、途中で「業績しか口にしない社長も、同じことを思っていたんだ」と、社長の側を肯定していました。読み手を素晴らしい人として扱い、その人の会社で起こりうる明るい出来事を見せる。この違いが2.8%と15.5%を分けたのだと考えています。

広告は飛び先のページと続けて読まれている

1行目の次には、広告と飛び先のページのつながりが効いていました。

同じ「お局が生まれる理由」の広告でも、飛び先のページの1画面目が「従業員の自主性を信じて失敗したことがある社長へ」と話を受けていたときは11.2%、話が続かないページに飛ばしたときは3.6%でした(配信の時期は違います)。反対に、同じ「従業員が泣いた」の動画と本文なら、飛び先のページを作り替えても、14.3%と15.5%でほとんど変わりませんでした。

話が途切れる(3.6%)

  1. 広告:「お客様満足度向上を現場に任せたら、お局が生まれる理由」
  2. ページの1画面目:「従業員の本来の力を引き出せていますか?」
  3. 読み手は、広告で気になった答えがどこにあるのか分からなくなる

話が続く(11.2%)

  1. 広告:「お客様満足度向上を現場に任せたら、お局が生まれる理由」
  2. ページの1画面目:「従業員の自主性を信じて失敗したことがある社長へ」
  3. 読み手は広告の続きがここにあると一目で分かる
同じ広告でも受け止めるページで変わる 広告の1〜2文目を飛び先のページの見出しにそのまま使うのが、いちばん確実でした(その形の広告が16.9%)。
広告ジョブスの傷跡の広告画像
飛び先のページ(スマホの1画面目)飛び先のページの1画面目。社員は、ジョブスの指示をすべて守った。しかし、かつてのApple製品は売れなかった、という見出しと、広告と同じレポートの表紙
広告の1行目がそのままページの見出しになる 登録率16.9%の組み合わせです。広告の本文の1行目「社員は、ジョブスの指示をすべて守った。しかし、かつてのApple製品は売れなかった。」を、ページの見出しにそのまま使い、広告の画像と同じレポートの表紙を1画面目に置いています。ページは2026年10月1日に撮影しました。

もうひとつ、条件がほぼそろった比較があります。「従業員が泣いた」の広告は、4月と9月にまったく同じ動画・同じ本文で出していました。次の4つが違っていました。

4月9月
動画・本文同じ
見出し会社の仕組みに一貫性はありますか?【経営者限定】従業員50名以上の組織の悩みを解決
ボタン詳しくはこちら登録する
ページ旧ページ文字を大きく、短く作り直したページ
除外登録済みの方登録済みの方+過去の読者
登録率14.3%(6/42)15.5%(30/194)

4つも同時に違うのに、登録率はほとんど変わりませんでした。どれか1つが大きく効いていたなら、差が出ていたはずです。4月の登録は6件と少ないので断定はできませんが、見出し・ボタン・ページの作り・配信から外す相手はどれも決定打ではなかったと読めます。変わらなかったのは話のつながりです。動画の最後の「無料動画で解説中」という一言を、飛び先のページの1画面目が「解説動画を無料公開中」と受けていました。

では反対に、飛び先のページを変えずに広告のほうだけを変えたらどうなるか。私の会社にはその比較もあります。同じページ(「仕事好きな社員なのに会社を嫌いになる理由。」という見出しのページ)に、時期を変えて2本の広告を流していました。

3月4月
ページ同じ
広告の1行目仕事は好きでも会社が嫌いなエース社員の本音。実は上司の指示を無視していましたある経営者は…物語にして、従業員に見せました。従業員は、感動して泣きました
登録率2.8%(3/109)
区間 0.9〜7.8%
15.2%(14/92)
区間 9.3〜23.9%

ページはまったく同じなのに、広告を変えただけで登録率はおよそ5倍になりました。区間も重なっていません。配信の時期が1か月違うので、時期の影響を消しきれてはいませんが、同じ「従業員が泣いた」の広告で飛び先のページだけを作り替えたときは、14.3%と15.5%でほとんど変わりませんでした。その結果とちょうど裏返しの関係になっています。

2つの比較を並べると、見えてくることがあります。

広告を固定して、ページを変えた

  1. 同じ「泣いた」の動画と本文
  2. 見出し・ボタン・ページの作りを変えた
  3. 14.3% → 15.5%(ほぼ変わらない)

ページを固定して、広告を変えた

  1. 同じ「会社を嫌いになる理由」のページ
  2. 1行目を社員の本音から社長の物語に変えた
  3. 2.8% → 15.2%(約5倍)
ページの登録率はその前の広告で決まっていた i-SHOT の実測。左は4月と9月、右は3月と4月の比較。どちらも配信の目標は「登録」です。

ページの登録率はページ単体の成績ではありませんでした。その前に見た広告から続く流れの成績だったのです。同じページでも、前の段で読み手を責める声で「なぜだろう」を渡されると、ページの話がどれだけつながっていても、2.8%にとどまりました。前の段で社長の側を肯定しながら「なぜだろう」を渡されると、同じページが15.2%の受け皿になりました。

もうひとつ、受け皿になるページの話もあります。広告の話を受けない別のページには時期を変えて3本の広告を流しましたが、登録率は1.3%、1.9%、3.6%と、どれも低いままでした。前の段の続きを受け止めないページには、どの広告を入れても流れがつながらないのです。広告だけを磨いても、ページだけを直しても足りない。つながりを見なければ、どちらを変えれば効くのかも分かりません。

意外にも、ページの見た目はあまり効いていませんでした。文字を大きくし、短くシンプルに作り直したページでも、同じ広告なら登録率はほとんど変わりませんでした。見ている方のほとんどはスマートフォンで、9月の配信では55歳以上の方が67%を占めていました。読みやすさは大切ですが、それだけでは登録は増えません。

登録の入口の位置だけは、はっきり効いていました。メールアドレスの入力欄がスマートフォンで15画面ほどスクロールした先にあったページは、4.7%でした。入口は1画面目か、そのすぐ下に置いてください。

登録率が高いことと良いお客様が来ることは別

ここまでの話にはひとつ落とし穴があります。いちばん登録率が高かった広告が、いちばん良い広告だったとは限らないのです。

最も登録率が高かったのは、ジョブスとAppleの話から始まり、無料の分析レポートを受け取れる広告でした(16.9%)。けれど、この広告から登録してくださった11人のうち、個別の相談を申し込まれた方はいまのところいません。経営を学びたい方が無料のレポートを気軽に受け取ってくださった結果だと、私は受け止めています。

一方で、「ある経営者の会社で、従業員が泣いた」の広告は登録30件のうち1件がご相談につながりました。エルメスなどの「お客様第一」の話から始まる広告は登録18件のうち1社とご契約に至りました。どちらも母数が小さく、言い切れる数ではありません。それでも、読み手と同じ立場の社長に起きた出来事から始まる広告には、自分の会社のことで悩んでいる方が来てくださる傾向がありました。

主人公有名企業・有名な経営者

主人公読み手と同じ立場の「ある社長」

受け取るもの無料の資料・レポート

受け取るものその出来事の種明かし

集まる方経営を学びたい方

集まる方自分の会社のことで悩んでいる方

登録率はその先と並べて読む 登録率だけが高い広告では、学び目的の方を広く集めていないかを確かめてください。

1行目が良くても流れのどこかで途切れれば届かない

ここまで1行目の話をしてきました。けれど、45本を並べていちばん強く感じたのは、1行目のうまさそのものではありませんでした。お客様が次の一歩に進むかどうかは、その前の段で生まれた「続きが気になる」という気持ちが、次の段で受け止められるかどうかで決まる、ということです。

お客様の行動は段ごとの割合の掛け算で進みます。私の会社のいちばん登録された広告を例にします。9月の配信で、飛び先のページが表示されたのが194回、そのうち登録してくださったのが30件、そこから個別相談を予約してくださったのが1件でした。

  1. 1飛び先のページが表示された:194回広告の1行目・動画を見て、続きを見に来てくださった
  2. 2メールアドレスを登録:30件(15.5%)1行目が効いたのは、主にここまで
  3. 3個別相談の予約:1件(登録の3.3%)ページ表示から数えると、約0.5%
行動は段ごとの掛け算で進む 2026年9月2日〜24日の実測。予約は1件なので、割合は目安です。

この15.5%は業界の水準と比べても低い数字ではありません。LPの作成ツールを提供する Unbounce が、2023年7月〜2024年7月の4万1,000件を超えるLPを集計した報告では、コンサルティングなどの専門サービス業のコンバージョン率の中央値は6.1%、上位4分の1に入るラインが14.1%でした。何をコンバージョンと数えるかはページごとに違い、海外中心のデータなので単純には比べられませんが、登録の段だけを見れば上位の水準にあります。それでも、予約まで進んだのは登録の3.3%でした。

掛け算ではいちばん弱い段が全体を決めます。仮に1行目を磨いて登録率を15.5%から20%に上げても、その先が3.3%のままなら、予約はページ表示の0.7%ほどにしかなりません。1行目の出来をいくら追いかけても、その先の段で気持ちが途切れていれば、努力はそこで止まってしまうのです。

では、段と段のあいだで何がつながっていればいいのか。そこで、ブランドエクスペリエンス(BX)という考え方が出てきます。

お客様は時間の順に目と手で会社と出会っている

お客様は会社を1枚の広告で知るわけではありません。広告に目が止まり、ページを開き、入力欄に指で打ち込み、届いたメールを読み、動画を見て、予約のカレンダーを押し、打ち合わせで担当者の声を聞く。時間の順に、目に触れるもの、手に触れるもの、耳に入るものを、一つずつ通っていきます。

  1. 広告目に触れる:画像・1行目・動画の最後の一言。「なぜだろう」が生まれる
  2. ページ目に触れる:1画面目の見出し。広告で生まれた「なぜだろう」の続きだと一目で分かる
  3. 登録手に触れる:入力欄・ボタン。迷わずに押せる場所にある
  4. 直後目に触れる:登録後のページ・最初のメール。約束した答えがすぐに届く
  5. メール目に触れる:続けて届くメール。広告と同じ声で、読み手を素晴らしい人として扱う
  6. 動画目と耳に触れる:種明かし。「自分の会社でもできそうだ」と思える証拠がある
  7. 予約手に触れる:日時を選ぶカレンダー。1画面目から入れる
  8. 相談耳と目に触れる:担当者の第一声・見せる資料。その会社自身の話になる
お客様が通る順に触れるものを並べる i-SHOTの広告から個別相談までの流れ。各段の右側はその段で起きてほしいことです。

ブランドとは、ロゴや広告の出来栄えではありません。お客様が「この会社となら、こんな自分になれそうだ」と予感し、その予感を段を追うごとに確かめていく、この流れの中にあります。私はこの流れ全体を設計することを、ブランドエクスペリエンス(BX)と呼んでいます。

流れの中の一つひとつの段には役割が2つあります。前の段で生まれた「続きが気になる」を受け止めることと、次の段への「続きが気になる」を生むことです。1行目がよく登録されたのは、広告という最初の段で「なぜだろう」を生み、飛び先のページの1画面目がそれを受け止めていたからでした。同じことが登録の先の段でも起きている必要があります。

反対に、流れは3つの形で途切れます。

  • 話が変わる:前の段と違う話が始まる。同じ「お局」の広告でも、話が続かないページに飛ばすと3.6%に下がった
  • 声が変わる:前の段では読み手を肯定していたのに、次の段で読み手を責めたり、命令したりする
  • 手が止まる:次の一歩の場所が遠い。入力欄が15画面先にあったページは4.7%だった

流れの切れ目はどこで起きるのか

私の会社の実測だけでは、1つの組み合わせあたりの数が小さく、言えることに限りがあります。そこで、段と段のあいだで流れが途切れる3つの形(話・手・声)について、公開されている調査や公的な資料と、私の会社の実測を並べて確かめます。

広告ページ登録メール予約話が変わる声が変わる手が止まるお客様が通る流れ
お客様は段と段の継ぎ目からこぼれる 話が変わる・声が変わる・手が止まる。どれも1つの段の出来ではなく、段と段のつながり方で起きます。

話が変わる:ページを開いた最初の数秒で続きかどうかが判断される

Nielsen Norman Group(ユーザビリティの研究機関)は、Microsoft Research の研究者が集めた約20万ページ・20億件を超える閲覧記録の分析を紹介し、ユーザーはたいてい10〜20秒でページを離れると述べています。しかも、離れる人が最も多いのは開いた直後で、そこを越えて残った人ほど長く読む傾向がありました(2011年公表。広告の飛び先に限らない、一般のWebページのデータです)。

同じ研究機関は、人がリンクや見出しを手がかりに「この先に探しているものがありそうか」を見積もりながら進むことを、「情報の匂い(Information Scent)」と呼んでいます。広告で「なぜだろう」と感じてページを開いた人は、1画面目にその続きの匂いがなければ、最初の数秒で引き返します。

広告の媒体も同じことを公式に求めています。Google 広告のヘルプは、広告の掲載順位を決める要素のひとつに「広告とランディング ページの品質」を挙げ、成果を高める方法として、広告とランディングページのメッセージに一貫性を持たせることを勧めています。Meta の広告規定も、広告で宣伝する商品・サービスは飛び先のページのものと一致していなければならないとしています。

私の会社の実測もこの方向と一致していました。同じ「お局が生まれる理由」の広告が、話を受けるページでは11.2%、話が続かないページでは3.6%でした。見出し・ボタン・ページの作りを変えても登録率が動かなかった「泣いた」の広告は、動画の最後の一言とページの1画面目の言葉がつながったままでした。

手が止まる:入力の手間はそれだけで人を帰らせる

入力と手続きの研究では、Baymard Institute の調査が最も参照されます。ネット通販のカート放棄率について、2006〜2025年に公表された50本の調査を平均すると70.22%でした。放棄の理由(Baymard の米国調査)には、「アカウントの作成を求められた」18%、「手続きが長い・複雑」17%が並びます。米国の平均的な購入手続きには最初の画面だけで23.48個の入力要素があり、検証では12〜14個まで減らせるとしています。

表示の速さも手の一部です。Google が2016年に公表した資料では、表示に3秒以上かかると、モバイルサイトの訪問の半数以上(53%)が離脱していました(当時の3G回線を前提にした古いデータで、目安として読むべき数字です)。

どちらもネット通販や一般のサイトの数字で、経営者向けの無料登録や相談の予約にそのまま当てはまるものではありません。それでも、次の一歩に手間がかかるほど人が減るという方向ははっきりしています。私の会社でも、メールアドレスの入力欄がスマートフォンで15画面ほど先にあったページは4.7%でした。登録の直後に開く予約ページでは、日時を選ぶカレンダーがスマートフォンで3画面ほど下にあり、1画面目に予約の入口がありませんでした。

声が変わる:急かす表示は信頼を失うだけでなく法律の問題になる

声の切れ目のなかでは、実際には終わらない期限でお客様を急かすことが最も重い問題です。消費者庁の景品表示法検討会の報告書(2023年1月)は、「残り○分」のように短い期間だけの得な条件に見せながら、その期間が過ぎても同じ条件が続く表示を例に挙げ、現行の景品表示法の有利誤認として規制し得るとしています。

実際に期間限定をうたった表示で措置命令が出ています。消費者庁は2025年3月27日、パソコンの販売会社に対し、「期間限定」「今なら」として示した還元が、期限を過ぎて購入しても同じかそれ以上受けられた表示を、有利誤認にあたるとして措置命令を出しました。

広告では読み手を素晴らしい人として扱っていたのに、登録後のメールで急かしたり、読み手の目指す姿を言い切って命令したりすれば、お客様の予感はそこで消えます。私の会社でも、登録後に続けて届くメールを通しで点検したとき、誰がいつ登録しても「本日23:59終了」と出るメールが見つかり、削除しました。報告書が挙げる例と同じ形の表示でした。命令口調になっていたメールも読み手を尊重する書き方に改めています。

切れ目公開されている根拠プロが点検すること
話最初の10〜20秒で離れる(NN/g)。媒体が広告とページの一貫性を求めている(Google・Meta)広告の最後の一言と、ページの1画面目の言葉が同じか。1つのページに話の違う広告を流していないか
手放棄率70.22%、手続きの長さ・アカウント作成が理由の上位(Baymard)どの段でも、次の一歩がスマートフォンの1画面目で見つかるか。入力の項目は最小か。表示は速いか
声実在しない期限は有利誤認として規制し得る(消費者庁)。措置命令の実例あり広告から相談の第一声まで、読み手を尊重する同じ声か。期限・残り数は事実か

どれも広告の1行目だけを見ていては気づけない切れ目です。数字の差は広告の段で目立ちますが、お客様を帰らせているのは、その先の段であることが少なくありません。

一貫性は見た目より話・声・手をそろえること

「広告とページの一貫性」と聞くと、色やデザイン、見出しをそろえることを思い浮かべるかもしれません。けれど私の会社の実測では、見た目の一致だけでは足りませんでした。

「たった90日で従業員のやる気がみなぎる」という広告と、同じ見出し・同じデザインのページを組み合わせたことがあります。見た目はきれいにつながっていましたが、登録率は4.7%でした。1行目が約束の形のままで「なぜだろう」が生まれず(話)、入力欄が15画面先にあった(手)からだと読んでいます。

一貫性とは、お客様の頭の中で同じ「こんな自分になれそうだ」という予感が、段を追うごとに少しずつ強くなっていくことです。そのために段と段のあいだでそろえるものは3つあります。

  1. 1話をそろえる前の段で生まれた「なぜだろう」の続きを、次の段で見せる。途中で別の謎を渡さない
  2. 2声をそろえる広告からメール、相談の第一声まで、読み手を素晴らしい人として扱う。急かさない、責めない
  3. 3手の置き場所をそろえるどの段でも、次の一歩(入力欄・ボタン・カレンダー)が探さずに見つかる場所にある
見た目より先に話・声・手をそろえる どれか1つでも途切れると、その段でお客様の予感は消えます。

そして流れがそろっていると、来てくださる方の顔ぶれも変わります。登録率がいちばん高かったジョブスの広告(16.9%)は、学びたい方が広く登録してくださった一方で、相談の予約はありませんでした。読み手と同じ立場の社長の出来事から始まり、その話が相談まで途切れずに続いていた広告から、自分の会社のことで悩む方が来てくださっていました。数はまだ少ないので傾向としてですが、流れの一貫性は集まる方の深さにも効いていると、私は考えています。

御社の流れをお客様の順に点検する

ここまでのことはMeta広告に限りません。ホームページ、チラシ、問い合わせフォーム、自動返信のメール、見積書、電話の第一声、打ち合わせの資料、請求書まで、お客様が時間の順に触れるものすべてに当てはまります。点検は次の順番で進めてみてください。

  1. 1お客様が通る順に、目と手に触れるものを全部並べる広告やホームページから、契約後の請求書まで。実際にお客様になったつもりで、自分で通ってみる
  2. 2各段で話・声・手が前の段とつながっているかを確かめる前の段の「続きが気になる」を受け止めているか。次の段への「続き」を生んでいるか
  3. 3段ごとの人数を並べ、いちばん減っている段から直す掛け算なので、弱い段を1つ直すほうが、強い段をさらに磨くより全体に効く
  4. 4流れの入口として、1行目を書き換える主語は「あるお客様」、1文目に意外な出来事、答えは次の段で
1行目は流れの入口にすぎない 入口だけを磨いても、その先でお客様の予感が途切れていれば届きません。

流れの入口になる1行目を書くとき、お客様の得をどこに置くかにも触れておきます。得を書くこと自体はむしろ欠かせません。書く段を変えるのです。1行目では「なぜだろう」を生むことに徹し、得はその答えを見せる次の段で、証拠と一緒に伝えます。実際に起きた出来事、そのときのお客様の言葉、数字です。証拠がないと、得はまた「約束」に戻ってしまいます。

お客様が触れるものを並べる段階で手が止まったら、他社を選ぶこともできたのに、御社を選び続けてくださっているお客様を1人思い浮かべてください。そのお客様が、最初に御社を知ってから今日までに、何を見て、何に触れて、どこで「この会社でよかった」と思われたのか。その順番が御社の流れの設計図になります。そこで見つかった出来事が、そのまま1行目の材料にもなります。

ここでお話しした、お客様の時間の順に触れるもの全体を、一つの流れとして設計する考え方が、ブランドエクスペリエンス経営の出発点です。広告だけでなく、社員の方の接し方や社内の決まりごとまで、同じ流れの上にあります。全体の考え方は下のセミナー動画でご覧いただけます。

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