※取材にもとづく編集記事です

VOL.015 IT・通信 公開 / 更新

通信の専門家ではなかった損保出身の社長はなぜ「ネット無料マンション」を74万戸に広げられたのか

ふつうは 集合住宅のネットは、おおよそ7割が入居者が自分で回線を契約する形。通信の会社にとってのお客様は回線を使う人になる。

この会社は お客様は物件のオーナー。入居率が上がるならネット代は大家さんが払い、機器は自社で作り、施設のWi-Fiは相手の宣伝の場にする。オーナーの収益を上げる道具として通信を作り続けている。

ネット無料のマンションはいまではめずらしくない。株式会社ファイバーゲートは2004年にこの形を始め、いまは約74万戸に届けている。マンション向けの事業者の中では2位だ。
※株式会社MM総研「全戸一括型マンションISPシェア調査(2026年3月末時点)」より
代表取締役 社長執行役員の猪又將哲さんは、通信の専門家ではない。損害保険の会社から、NTTの代理店を経て通信の世界に入った。広げられた理由は技術ではなく、誰をお客様と見たかにある。猪又さんのお客様は回線を使う入居者ではなく、物件のオーナーだった。

株式会社ファイバーゲート。賃貸マンション・アパートのオーナー向けに、全戸で入居者がインターネットを無料で使える設備を提供するほか、病院・介護施設・ホテル・バスなどのWi-Fi、通信機器の開発、再生可能エネルギー(電力)、不動産を手がける。本社は北海道札幌市中央区。東京・大阪・名古屋・仙台・福岡にもオフィスを置く。社員数250名(2026年6月30日時点・関連会社の社員を含む)、2026年6月期の連結売上高は136億6,400万円。2000年9月設立。東証スタンダード・札証に上場。

業種
Wi-Fi・インターネット接続サービス/通信機器の開発・製造
所在地
〒060-0061 北海道札幌市中央区南1条西8丁目10-3 第28桂和ビル
従業員数
250名(2026年6月30日時点・関連会社の社員を含む)
売上規模
136億6,400万円(2026年6月期・連結)
設立
2000年9月
拠点
本社(札幌)と、東京・大阪・名古屋・仙台・福岡のオフィス
話を聞いた人
猪又 將哲(代表取締役 社長執行役員)
株式会社ファイバーゲート 代表取締役 社長執行役員 猪又將哲さん。紺のストライプのスーツ姿で木の机に向かい、両手を広げて話している

通信の専門家ではない社長の会社が、74万戸まで広げ、2位になった

ファイバーゲートで、入居者がインターネットを無料で使える部屋は、2026年6月期末に74.0万戸になった。9年前の7倍あまりだ。マンション向けインターネットの事業者の中でのシェアは、2016年3月の9位から、2026年3月には2位まで上がった。
※株式会社MM総研「全戸一括型マンションISPシェア調査(2026年3月末時点)」より

猪又さんはエンジニアではない。コンピューターは独学で、コードは書けない。金融や不動産が好きで、通信は「経営としてやっているだけ」だという。始めはNTTの代理店で、ISDNの回線を1本取り次げば1万円をもらう仕事だった。

その会社がなぜここまで広げられたのか。猪又さんの話を聞くと、答えは回線の側ではなく、お金を払う人の側にあった。

  • 2017年6月期末10.0万戸
  • 2018年6月期末15.2万戸
  • 2020年6月期末28.0万戸
  • 2022年6月期末45.1万戸
  • 2024年6月期末61.8万戸
  • 2026年6月期末74.0万戸
インターネット無料の部屋は9年で7倍あまりに株式会社ファイバーゲート「2026年6月期 決算説明資料」のレジデンスWi-Fi接続済戸数(期末)をもとに当社が作成。

回線の会社にとって、お客様は入居者だった

マンションやアパートのインターネットは、入居者がそれぞれ回線の会社と契約して、毎月の料金を払う形が多い。建物まるごとで契約する形は、全国の共同住宅のおおよそ3割にとどまる。

この形では、回線の会社のお客様は入居者だ。光ファイバーは建物ごとに引くので、契約が多く見込める大きなマンションが先になり、小さなアパートは後回しになりやすい。総務省の住宅・土地統計調査では全国の共同住宅214万棟のうち、9戸以下の小さな建物が65.5%を占める(2008年)。おおよそ3分の2だ。

ファイバーゲートが事業を始めた札幌には、小さなアパートが多かった。光を使いたい入居者はいる。管理会社からは何とかならないかと相談された。

  • 全国の共同住宅(居住世帯のある住宅、2023年)2,496.8万戸
  • 建物まるごとで契約するインターネット(全戸一括型、2026年3月末)720.0万戸
建物まるごとで契約する形は、共同住宅のおおよそ3割総務省「令和5年住宅・土地統計調査」、MM総研「全戸一括型マンションISPシェア調査」(2026年9月)をもとに当社が作成。時点と数え方が異なるため、割合はおおよその目安。

猪又さんはお客様を物件のオーナーだと考えた

猪又さんが見たのは、入居者ではなく、アパートを持つオーナーの側だった。当時の賃貸業界は部屋が余り、空室に悩んでいた。アパートは借金をして建てる金融商品でもある。オーナーは1人でも多く入居者を確保したい。

それなら、インターネットを入居者に売るのではなく、入居者が無料で使える設備としてオーナーに売ればいい。お金を払うのは、入居率が上がって得をするオーナーだ。ファイバーゲートは自分たちが契約者になって建物まで光を引き、線を引く工事が高い建物の中は無線で配った。

大家さんが払うべきだと。要は受益者ですよね。受益者が払うべきでしょっていう。

猪又 將哲

金融と不動産が好きな猪又さんには、アパートは毎月の家賃を生む資産に見えた。そう見れば、ネット代は回線の料金ではなく、空室を埋めるための費用になる。通信より先に、オーナーの収支が見えていた。

1部屋月1,000円で入居率が5%上がるなら、オーナーにとっては安い

オーナーへの説明は収支の話だった。水回りをリフォームすれば何十万円もかかる。インターネットなら1部屋で月1,000〜1,500円ほど。10部屋のアパートで月2万円、年24万円を払っても、入居率が5%変われば十分に元が取れる。

入居者の側もこの設備を求めるようになった。全国賃貸住宅新聞の調査では「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても入居が決まる」の1位を、インターネット無料が単身向けで10年続けて取った(2024年)。ファイバーゲートは有価証券報告書で、このサービスを「入居促進や退去防止の為の有効なサービス」と書いている。

広がり方にも、この考え方が効いた。建物まるごとの契約なので、1回の契約で全部の部屋がつながり、そのまま毎月の売上になる。ファイバーゲートの毎月入る売上は、上場してから33四半期続けて増えた。会社紹介資料はこの積み上げを「創業来追求してきた命題」と書いている。

  • 月1,000〜1,500円1部屋あたりのネット代
  • 年24万円10部屋のアパートで、月2万円を1年払うと
  • 何十万円水回りのリフォーム
  • 5%入居率がこれだけ変われば、元が取れる
ネット代をオーナーの入居率で考える

どうせ機器を入れるなら、自分たちで作り、自分たちで工事する

ファイバーゲートが開発した通信機器4点。天井に付ける丸いアクセスポイント、壁に埋め込むアクセスポイント、黒いルーター、スイッチ

オーナーの収支から考えると、次に削りたいのは費用だ。通信の会社はふつう機械を作らない。マンション向けの最大手も、機器はほかの会社から買って提供していると有価証券報告書に書いている。ファイバーゲートはWi-Fiのルーターを自分たちで開発し、製造をほかの工場に任せてきた。どうせ建物に機器を入れるなら、自分たちで作ったほうが安く、つないだあとの管理もしやすい。

壁に埋め込まれたWi-Fiのアクセスポイント
各部屋に設置する壁埋め込み型のアクセスポイント

工事も同じだ。外に頼めば、工程ごとに相手の利益が乗り、オーナーの払う値段が上がる。2026年5月には電気通信工事の会社アイワを子会社にした。目的は「通信事業工事内製化」だ。

顧客にとって、1つの窓口で全部が分かるっていうことはすごく便利なんですよ。

猪又 將哲

有価証券報告書はこの一気通貫の利点を、顧客の「ワンストップサービスを委託できる安心感」と、サービス全体の最適化によるコストの低減と書いている。

集合住宅だけ病院・ホテル・交通まで顧客の幅回線の提供自社で持つ工程機器の開発・工事・運用まで住宅向けが中心の事業者機器・工事の公表なし回線網と工事は自前機器は調達して提供独自の機器と工事の子会社ホテルにも広げ始めたファイバーゲート
オーナーの収益から逆算すると、業種は広がり、工程は自社の内側に入るマンション向けインターネット(全戸一括型)の上位の事業者を、各社の有価証券報告書などの公開情報(2026年10月時点)をもとに当社が配置。

施設のWi-Fiはまだ売上の13%。データの活用はやめた

介護施設の明るい廊下。白い壁に手すりが続き、天井に小さなアクセスポイントが付いている

同じ考え方で、ファイバーゲートは病院、介護施設、ホテル、観光地、商店街、バスにもWi-Fiを広げてきた。ここでのお客様は施設やバスを持つ会社だ。Wi-Fiにつないだ瞬間の画面に、施設の案内や宣伝を出せる。ジェイアール東海バスは2022年4月から91輌にファイバーゲートのWi-Fiを入れた。猪又さんによると、この画面が導入の決め手になった。

ただ、思いどおりに進んだわけではない。つないだ人のデータをマーケティングに使う構想は、個人情報の保護が厳しくなり、やめた。無線で建物をつなぐ形も始めてからたくさん失敗したという。施設向けの売上は2026年6月期で18.3億円、連結の13%にとどまる。毎月入る売上が伸びる一方で、工事や機器の販売のような一度きりの売上は、ここ数年ほぼ横ばいだ。

同じ電波なんだから、僕にとってみれば、それが企業向けになるのか不動産業向けになるのかだけの違いじゃないですか。もちろん知識はいりますよ。

猪又 將哲

マンションと施設では、オーナーの業種も、組む相手も違う。ホテルなら旅行代理店、医療なら医療に強い卸の会社と組む。猪又さんは決算説明会で、施設向けを50億円、60億円に伸ばしたいと話している。

入居者に回線を売る会社のままなら、小さなアパートは後回しだった

壁の穴から出したLANケーブルを、壁埋め込みのアクセスポイントにつなぐ工事の手元

ここからは編集部の見立てだ。入居者1人ずつに回線を売る形なら、部屋の少ない建物は採算に合いにくい。札幌の管理会社の相談には、応えにくかったはずだ。オーナーをお客様にしたから、小さなアパートでも1棟まるごとで採算を考えられた。

機器も工事も外に頼むままなら、オーナーが払う値段は工程ごとに上がっていた。オーナーの収支を基準にしたから、作る、工事するといった通信の会社がふつうはやらない工程まで自分たちで持つことになった。

営業に財務会計を学ばせるのは、オーナーと同じ数字で話すため

ファイバーゲートの東京オフィスのエントランス。グレーの壁にロゴと社名、グループ会社4社の名前が並び、木の棚に会社案内と電話が置かれている

ファイバーゲートの社員には、とがった人はあまりいない、と猪又さんはいう。採るときに見てきたのは、素直さと、嘘をつかないことだ。営業が強いというより、どうやったら簡単に売れるかに軸足を置いている気がする、とも話す。

国籍、性別、学歴、新卒か中途かは、まったく関係ない。財務会計の知識も、入社したときはゼロでいい。ただ入社してからは財務会計を勉強しろと口うるさく言う。営業にこそ要るという。

財務会計が分かると、上の人と話せるようになるんですよ。いつも下の方としか会えないから、決裁率は低くなる。トップと会わなきゃだめですよ。

猪又 將哲

オーナーの収支から考える商売は、オーナーと同じ数字が読めなければ提案できない。日経新聞を5年読み続けた人と読まない人では天地の差ができる、とも話す。

数字で見るファイバーゲートの違い

設立は2000年9月。社員数は250名(2026年6月30日時点・関連会社の社員を含む)。2026年6月期の連結売上高は136億6,400万円で、96%を通信事業が占める。

毎月入る売上は2026年6月期の第4四半期で25.1億円。工事や機器の販売のような一度きりの売上は7.5億円だった。

経営理念は「お客様の事業に貢献することでビジネス上の“ありがとう”を集める」。

  • 136億6,400万円連結売上高(2026年6月期)
  • 96%通信事業が売上に占める割合
  • 25.1億円毎月入る売上(2026年6月期 第4四半期)
  • 33四半期連続毎月入る売上が増え続けた期間(上場から)
オーナーから毎月もらい続ける売上が、会社を支えている株式会社ファイバーゲート「2026年6月期 決算短信」「2026年6月期 決算説明資料」をもとに当社が作成。

ファイバーゲートのやり方を自分の会社で使うための3つのこと

一つめ。お金を払ってくれる人ではなく得をする人から、お客様を決め直す。ファイバーゲートは回線を使う入居者ではなく、入居率が上がるオーナーをお客様にした。

二つめ。自分の商品を相手の収支の中に置いて説明する。ネット代を1部屋月1,000円と言うより、入居率が5%変われば元が取れると言うほうが、オーナーは決めやすい。

三つめ。相手の値段を上げてしまう工程は、外に出さずに自分で持つ。機器も工事も、外に頼めば相手の利益が乗る。持てば安くなり、窓口も1つで済む。

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