※取材にもとづく編集記事です

VOL.000 コンサルティング・専門サービス

i-SHOTは、あえて「何でもできる人」を採用しないと決めた

ふつうは 採用では、できることが多い人から順に選ぶ。

この会社は 社員がお客様だけを見ていられるように、能力の幅を捨てた。

設立1年目に、この会社は採用の基準をひっくり返した。何でもできる方は、お迎えしない。狭い範囲を正確にやれる方だけにした。社員がお客様の一瞬だけを見ていられる環境を、先に作るためだった。いま他社にブランド経営を売っている会社が、最初に自分で試したことでもある。

i-SHOT株式会社。ブランドエクスペリエンス(BX)経営支援。本社は東京都渋谷区、渋谷スクランブルスクエア39F。2019年11月11日設立、代表は原田悠暉。このメディア「THE DIFFERENT」の発行元でもある。

業種
ブランドエクスペリエンス(BX)経営支援
所在地
〒150-6139 東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア39F
設立
2019年11月
話を聞いた人
原田 悠暉(代表取締役)
i-SHOT株式会社 代表取締役 原田悠暉さん。オフィスラウンジの椅子に座り、こちらを見て笑っている

採用では、できることは多いほうがいいことになっている

求人票には経験年数を書く。面接では前職の成果を聞く。経験のある人ほど早く戦力になり、教える手間も少ない。だから応募者は、できることの多い順に並べられる。

この前提が疑われることはあまりない。能力が多すぎて困った、という話を聞かないからだ。

i-SHOTは、設立1年目にそこでつまずいた。

お客様に集中させるために、能力の幅を捨てた

大手からの受注が決まった頃だった。社員に使ってほしい時間は決まっていた。お客様がいま何を考えているのかを、考えるための時間だ。

だから、それ以外を分解してマニュアルにした。考える順番も、手を動かす順番も。考えることをやめさせたのではない。考える先を、1つに寄せた。

そこへ、SEOを知っている人が入ってくる。返ってきたのは、「こんなに細かいことをやってられない」という反応だった。

ここで言う「能力の高い人」とは、幅広くこなせて、経営者に近い視点を持ち、転職市場でも評価される人のことだ。問題は、能力の不足ではなかった。

逆に、SEOの知見がない人ほど、手順のとおりに素直に動いた。整えた環境に対して、幅広い能力はオーバースペックだった。広く見える人ほど、目の前のお客様から目が離れていた。

能力の余剰経費というものがあると学びました

原田 悠暉

誰にも相談しなかった。幅広い能力より、小さな範囲に特化した能力。仕事の早さより、正確さ。創意工夫より、決まりを忠実に守れること。この3つに、採用基準を入れ替えた。

「これでいく」という気持ちだけで進めたという。いまでも正しかったのかは分からない、とも言う。

そのかわり、社員はお客様のところへ行くようになった

教えないと決めたものがある。Webマーケティングの知識と技術だ。

かわりに教えたのは1つだけだった。ユーザーの一瞬一瞬に目を向けて、そのときの欲や感情を満たすこと。それだけで結果がよくなった。技術は、必要なときに外注するか、AIに聞けばいい。

だから社員は、パソコンの前だけで仕事をしなくなった。美容クリニックの比較サイトを作っていたときは、スタッフが自分でカウンセリングを受けに行った。

選考も入れ替えた。同じタイピングテストを、3回繰り返してもらう。意味があるのかと思った人は、そこで離脱する。メールの返信テストもある。お客様の立場に立てば気づくはずの間違いが、問題文のなかに隠してある。

設立3年目、1年以上依頼を受けていた会社から「一緒に企画会議をしたい」と言われた。待っているだけの関係が、その一件から変わった。4年目には、上場企業から指名が届くようになった。

エンドユーザーが熱中できるサービスを提供するために、僕たちがゲームのように熱中して働ける仕事をつくる

社内のカルチャー定義

変えたのは、採用だけではなかった

評価は先に変えてあった。曖昧な四半期評価をやめ、客観的な項目をクリアするたびに毎月給料が更新される。誰が伸びて誰が辞めるかのデータは、そこに溜まっていた。採用基準は、その上で書き換えられている。

報酬の決め方も1つに揃えた。自分ではコントロールできない範囲の責任を、どれだけ背負っているか。それが広いほど高くなる。

だから、下がることもある。役職が下がれば報酬も下がる。それで働きやすくなったと言うスタッフもいた。

現場に渡した決裁もある。分解済みの業務を外注に出す判断。人件費と同じだけ削減できるSaaSの契約。LLMそのものへの投資。ここは自由に決めさせている。

受ける仕事も絞った。SEO以外の領域を受注しない時期がある。オペレーションを最適化してあるので、別の案件を取ると仕組みを作り直すことになり、利益率を圧迫する。

顧客も選んだ。SEOの知見がある会社にしぼっている。専門知識で勝負しない会社が、いちばん詳しい相手を選んだことになる。勝負していたのは知識ではなく、ユーザーの一瞬をどれだけ具体的に見られるかだった。

「なんでこんなことも考えられないのか」と思う日が続いた

基準を変えた直後は、苦しかった。

問題を見つけるのも、それをどうするか考えるのも、全部ひとりだった。

辞めた人もたくさんいる。基準を変えたことが原因で離れた人は、少なくない。

これだけ採用してだめなのだから、結局自分に問題があるのではと思いました

原田 悠暉

ただ、いまは同じ場面をこう見ている。言われたことを、理由が分からないままそのまま実行できる。それだけで十分に価値がある、と。

自分も、先輩経営者に言われたことの意味が分からないままやってみて、あとから「こういうことか」と分かることが多いという。理由が分からないまま動けるのは、弱さではなかった。

もし幅で採用し続けていたら、社長が抜けた日に止まっていた

起業したときの目標は、売上でも会社の規模でもなかった。自分がいなくても回る仕組みを、産み落とせる人間になること。自分に何かあっても、価値が社会に残り続けること。

2023年、1年間、既存事業の現場に立たなかった。会社はその間も伸びている。

もし「何でもできる人」を採用し続けていたら、この1年は取れなかったと考えている。経営者に近い視点を持つ方が増えるほど、判断が分かれる。分かれた判断は、結局社長のところへ戻ってくる。

8年続けた事業を他社に引き継いだときも、担当していたスタッフはそのまま残った。いまも同じ人たちが動かしている。手を離しても、お客様に届くものは止まらなかった。

仕組みはすべて、スタッフがユーザーにフォーカスを当てるための一つの方法です

原田 悠暉

引き継ぎを伝えた日、スタッフからは特に何も言われなかったという。「僕ではなくて、会社が好きだったんだと思います」。会社のほうに何かが宿っていたことを、そこで確かめている。

いま同じことを、他の会社に提供している。ブランドエクスペリエンス経営支援、という名前で。

未経験の彼女が、大企業に「メリークリスマス!」と送った

コンサルタントとして採用した女性がいる。完全な未経験だった。入社3ヶ月目に、2,000万円につながる受注を決めている。

その彼女が、お硬い業種の大きな法人の担当者宛に、「メリークリスマス!」と書いたメールを送っていた。

社長がそれを知ったのは、送信済みフォルダを開いたときだった。冷や汗をかいた。

ところが、そのメールが担当者との距離を縮めるきっかけになった。できることの数で選んでいたら、まず採用していない方だった。

僕自身も、先輩経営者に言われて理解できないことが多いのですが、やってみたら「こういうことか」というのはよくあります。言われたことを、理由が分からなくても実行できる。というだけでも、とても素敵なことなのです

原田 悠暉

本項は社長への取材による伝聞です。社員本人への直接取材ではありません。

数字で見る、i-SHOTの違い

採用は100人。3ヶ月を超えて残ったのは10人ほど。超えた人は、長く残る。

見ている数字は売上ではなく、1人あたりの営業利益額。

売上は5年連続で伸びた。初年は2倍に届かず、最終年で10倍ほど。パート勤務のスタッフを含む。

2023年は1年間、既存事業の現場に立たなかった。

事業の形は5回変わっている。SEOの受託、比較サイトの運営、分析手法、市場調査の仕組み化、新しいメディアの立ち上げ。幅を捨てたぶん、会社の形を変えることで伸ばしてきた。

いまも足りていないものはある。スタッフ自身の発想から会社が変わる速さだ。そこは活かしきれていないと、本人が言う。かわりに、最小の工数で試す回数を増やしている。

人数と倍率は代表の記憶による概数です。引き継ぎ先・金額・支援先の社名は非公開としています。

能力を削ったのではない。

社員がお客様の一瞬だけを見ていられるように、それ以外を減らした。

社長がいなくなっても、その一瞬は守られる。

それを他の会社にも渡せないかと考えて、いまの仕事になった。

この記事を読んで、自分の会社にも「これって普通じゃないのかも」と思う何かがあるかもしれない、と感じた方へ。

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