※取材にもとづく編集記事です

VOL.009 メーカー 公開 / 更新

赤字の立て直しは値上げの見直しと並行して社員が話せる空気をつくった

ふつうは 値上げの交渉が通るのは、およそ半分。コスト増を価格に転嫁できるのは平均52.4%で、金属の業種は50.9%にとどまる。

この会社は 値上げや原材料の調達の見直しもしながら、社員が遠慮なく話せる空気づくりに注力した。

本来は300円ほどもらうべき製品を、150円ほどで請けていた。そうした値付けのまま、加藤軽金属工業では製品の72%が赤字だったという。代表取締役の加藤大輝さんは、2020年に家業へ戻ると、値上げや原材料の調達の見直しもしながら、社員が遠慮なく話せる空気づくりに注力した。新しいことを始めるには横の連携が要り、そこで話せなければ何ともならないからだ。原材料の調達、値上げ、電気の調達、出荷の見直しを進め、赤字の製品の割合は約46%まで減った。お客様の小ロット・短納期の注文に応えて生き残ってきた会社の、立て直しの進め方を聞いた。

加藤軽金属工業株式会社。窓枠や天井のルーバー、電気機器の部品に使うアルミの細長い形材(押出形材)をつくる。本社は愛知県海部郡蟹江町。1961年設立で、加藤さんは3代目。従業員は社員とパートを合わせて99名、売上は約38億円規模。

業種
アルミ押出形材の製造・加工
所在地
〒497-8533 愛知県海部郡蟹江町西之森三丁目47番地
従業員数
99名
売上規模
約38億円
設立
1961年
拠点
本社(愛知県海部郡蟹江町)・東京営業所
話を聞いた人
加藤 大輝(代表取締役)
加藤軽金属工業 代表取締役 加藤大輝さん。紺のポロシャツ姿で、マイクを持ち、人差し指を立てて話している。展示会の登壇中

会社を引き継いだ当時、製品の72%が赤字だった

加藤軽金属工業の工場にあるプレス機。ピンク色の本体に黄色の梁があり、手前に操作盤が見える

加藤さんが戻ったころの会社は、経営が厳しい状態にあった。コロナの影響もあり、不採算の製品も多かった。

加藤さんは、本当は300円ぐらい取らなければいけないものも、150円になってしまうことがあったと話す。そうした値付けのまま、当時は製品の72%が赤字だったという。

値上げをすればいい、と考えるのが普通だ。ただ、値上げは思うようには通らない。中小企業庁が2025年3月分の価格交渉の結果を取りまとめた調査(中小企業等65,725社)では、コスト増をお客様の側に転嫁できたのは平均で52.4%。金属の業種は50.9%だった。値上げの交渉が通るのは、およそ半分にとどまる。

発注側へのコスト増の価格転嫁率

  • 全業種の平均52.4%
  • 金属の業種50.9%
値上げの交渉が通るのは、およそ半分中小企業庁「価格交渉促進月間 フォローアップ調査」(2025年3月分、中小企業等 N=65,725社)をもとに当社が作成。

値上げや原材料の調達を見直しながら、社員が話せる空気をつくった

加藤さんが力を入れたのは、話せる空気づくりだった。

新しいことを始めると、これまでと違う仕組みに変えることになる。そのとき、皆さんの協力と、横の連携が要る。話せなければ、どれも進まない。

以前は失敗すると怒られることがあった。そうなると思っていることを言いにくい。最低限の連携ができる状態をつくることが、立て直しの仕事のひとつになった。2020年10月に入社した加藤さんは、1年ほどは研修をしながら改善活動を始めた。

新しい仕組みに変えるには、皆さんの協力と横の連携が要る話せなければ、どれも進まないだから、見直しを進めながら社員が遠慮なく話せる空気をつくり、最低限の連携ができる状態にする
値上げや原材料の調達を見直しながら、話せる空気をつくった

メンバーに意見をもらいながら、ミッション・ビジョン・バリューを作った

空気づくりの中心に置いたのは、マネジメント研修だった。20〜30人の社員に、リーダーシップやマネジメントの研修を受けてもらった。

研修のなかで、メンバーに物事を伝える難しさが話に出た。強くは言えない。かといって、どう言えばいいかも分からない。そこで、会社として基本方針が決まれば、その方針に沿って言える、という話になった。加藤さんはメンバーに意見をもらいながら、ミッション、ビジョン、バリューを作った。

そのバリューの一つが、次の言葉だ。

真心トーーークという、配慮はあっても遠慮はなし、という意味もあるバリューを作った。

加藤 大輝

その理由を、加藤さんはこう話した。

1日8時間会社にいるなら、嫌な思いをして帰っていく会社は作りたくないじゃないですか。気持ちよくみんなが働ける環境になればいいかな、と思っています。

加藤 大輝
マネジメント研修(20〜30人)で出た悩みメンバーに、強くは言えない。どう伝えればいいかも分からない会社の基本方針が決まれば、その方針に沿って言えるメンバーに意見をもらいながら、ミッション・ビジョン・バリューを作るバリューの一つ「真心トーーーク」
伝え方の悩みから、方針づくりに進んだ

話せる空気づくりと並べて、原材料と電気の調達、値上げ、まとめ出荷を見直した

加藤軽金属工業の工場の中。長い台の上にアルミの細長い形材が何本も並び、奥で作業する人が小さく見える

話せる空気づくりと並べて、原材料の調達や値上げの見直しも進めた。次のことを、みんなで進めた。原材料の調達の仕方を変えた。原価を計算して、値上げに動いた。電気の調達の仕方を変えた。まとめて出荷できる台車を作り、輸送をまとめた。生産に余裕を持たせて、まとめて作り、まとめて出荷できる体制にした。

どれも、これまでと違う仕組みに変える見直しだ。最低限の連携ができる状態をつくることが、この見直しを進める前提になった。

赤字になっている製品の割合は、製品の数で見て72%から約46%まで減った。加藤さん自身は、もっと改善しなければならないと話す。46%をさらに減らすのが、いま取り組んでいることだ。

見直しと並べて社員が話せる空気をつくるあわせて、みんなで進めた見直し原材料の調達の仕方を変える原価を計算して、値上げに動く電気の調達の仕方を変えるまとめて作り、まとめて出荷する体制に赤字の製品の割合(製品の数)72% → 約46%
話せる空気づくりと並べて、見直しを進めた

小ロットと短納期を、むしろ研ぎ澄ます

加藤軽金属工業がつくったアルミ押出形材の断面。丸い穴が空いた形材が青い台の上に積まれている

立て直しのなかで、加藤さんが変えなかったことがある。お客様の注文に合わせて、小ロットや短納期で応える会社であり続けることだ。

この方針に切り替えたのは、1990年ごろだった。加藤さんによると、アルミの押出は先行して始めた会社がうまくいく時期があった。そこに競合がどんどん入ってきた。生き残りを考えたとき、殿様商売をしていてはだめだと考え、お客様の要望に合わせた小ロットや短納期を始めた。業界では、中途半端な殿様商売の会社は消えていったという。

小ロットや短納期は、製造のコストが上がる。社内もそのぶん慌ただしくなる。それでも続けるのは、お客様の要望に応えることが長続きしてきた理由だと考えているからだ。試作やプロトタイプの制作も受ける。高く買ってくれるお客様向けに、手間のかかる仕事も引き受けている。試作から量産につながれば、金型を持っているので先行者利益が出る状況もつくれる、と見ている。

追いかけてくる会社は出てくるかもしれない。その前に追随されない仕組みをブラッシュアップし、組織力と対応力を磨いていく、と加藤さんは話す。

失敗してもやり切ったら評価する制度で、挑む社員のリスクに応える

加藤軽金属工業 代表取締役 加藤大輝さん。緑のヘルメットをかぶり、紺のポロシャツ姿で笑顔を見せる。背後は工場の中

新しいことに挑むのは、コストがかかる。手間もかかる。失敗すれば何か言われる。そのリスクに応える制度が要る、と加藤さんは考えた。

そこで、ミッション、ビジョン、バリューを変えたあとに、人事制度も変えた。そのひとつが、プロジェクト制度だ。社員でもプロジェクトオーナーになれて、自分でプロジェクトを提案できる。成功しても失敗しても、やり切ったら評価する。

小さなチーム単位で自由に動けるようにしたら、アイデアがたくさん出るようになったんです。

加藤 大輝

自発的に動き、PDCAを自分で回す経験を社員に積んでもらいたい、というのが加藤さんのねらいだ。

数字で見る加藤軽金属工業の違い

会社の設立は1961年で、いまの加藤さんで3代目。従業員は社員とパートを合わせて99名、売上は約38億円規模。

赤字の製品の割合は、製品の数で見て72%から約46%まで減った。残りを減らすのが、いまの仕事だ。

マネジメント研修を受けた社員は20〜30人。原材料と電気の調達、値上げ、輸送の見直しは、社員が話せる状態をつくることと並べて進めた。

値上げ交渉でコスト増を転嫁できるのは平均52.4%(中小企業庁、2025年3月分)。この会社は、原材料の調達や値上げを見直しながら、社員が話せる空気をつくった。

  • 約38億円規模売上
  • 99名従業員(社員とパートの合計)
  • 72%→約46%赤字の製品の割合(製品の数)
  • 20〜30人マネジメント研修を受けた社員
立て直しの途中にある数字

加藤軽金属工業のやり方を、自分の会社で使うための3つのこと

一つめ。赤字を直したいなら、見直しを進めながら横の連携が取れる状態をつくる。新しいことを始めるには、話せることが前提になる。

二つめ。話せる空気をつくるには、基本方針を、メンバーに意見をもらいながら作る。方針が決まれば、その方針に沿って言える。配慮はあっても遠慮はなし、というバリューを、そうして作った。

三つめ。失敗してもやり切ったら評価する。挑戦のリスクに応える制度をつくり、小さなチームで自由に動けるようにしたら、アイデアがたくさん出るようになった。

この記事を読んで、自分の会社にも「これって普通じゃないのかも」と思う何かがあるかもしれない、と感じた方へ。

自分の会社の“違い”は、社内にいるといちばん見えにくいものです。 何が違いになるのか、それを経営にどう活かすのかを、無料のセミナー動画で解説しております。

セミナー動画を見る

i-SHOT株式会社のBX経営支援のご案内です。費用はかかりません。