※取材にもとづく編集記事です

VOL.012 医療・福祉・介護 公開 / 更新

人が来ないからと仕事を楽にしたら
保育園は終わる

ふつうは 保育士が足りなければ、仕事の負担を軽くして応募のハードルを下げる。

この会社は 一斉保育も行事も減らさない。大変さを見学で正直に伝え、休みと福利厚生を充実させて働きやすくする。

保育士が足りない。応募を増やすには、運動会も音楽会も減らして仕事の負担を軽くするのが近道に見える。福岡市東区の社会福祉法人覚応会、光和保育園の理事長兼園長の古賀良和さんは、その道を選ばなかった。全員でそろえる一斉保育も、組み体操や鼓笛、合唱の音楽会も変えない。その土台には、一人ひとりを大切にした思いやりと優しさがある。採用がいまの課題だと認めたうえで、見学に来る人には仕事の大変さを正直に話す。仕事が大変な分は、休みの取りやすさと福利厚生で働きやすくする。やることを減らして採用を楽にした園は、10年後、20年後に差が出ると古賀さんは見ている。

社会福祉法人覚応会 光和保育園。認可保育所の光和保育園(本園)と、分園、小規模保育園を一つの園として運営。保育士の採用が難しい中でも、一斉保育と行事の中身を変えず、見学で仕事の大変さを正直に話し、休みと福利厚生を充実させている。本園は福岡県福岡市東区和白。職員は95名。1971年創立。

業種
認可保育所の運営(社会福祉法人)
所在地
〒811-0202 福岡県福岡市東区和白3丁目20-12
従業員数
95名(2026年10月)
売上規模
約5億円
設立
1971年4月
拠点
光和保育園(本園)・分園・光和小規模保育園
話を聞いた人
古賀 良和(理事長兼園長)
光和保育園 理事長兼園長 古賀良和さん。ストライプのスーツにネクタイ姿で、園舎を背に話している

保護者に人気の行事は、見学に来た保育士には敬遠される

おゆうぎかいの舞台で、衣装を着た園児が横に並び、客席から見守られている

見学に来た学生が園の話を聞いて帰っていく。音楽に力を入れていると聞けば、ピアノは苦手だから自分には無理だと考えて、応募しない。古賀さんはこの場面を何度も見てきた。

保護者にとって魅力的な園は、就職者にとってはとっても嫌な園なんですよ。結局、いろんなことを頑張っていますというところは嫌じゃないですか。音楽もしていたら、ピアノも弾かないといけないし。

古賀 良和

光和保育園の運動会には組み体操や鼓笛があり、お遊戯会ではオペレッタやダンスを演じる。音感教育にも取り組み、2、3歳から子どもたちが歌う。保護者には魅力的に映る。けれど、働く保育士には負担になる。古賀さんはこの食い違いを隠さずに話すことにした。見学では、やりがいの大きさと同じ重さで、仕事の大変さも伝える。

保育士は足りず、定着の課題の最多は仕事の負担の重さになっている

保育の現場では、人が足りない園が目立つ。福祉医療機構が2025年に行った調査(1,381施設)では、職員が不足している保育所・認定こども園は42.6%。不足している施設の77.9%が、理由を「採用したい人数を採用できていない」と答えた。福岡県の保育士の有効求人倍率は2.48倍で、全職種平均の1.18倍の2倍を超える(2025年4月、厚生労働省の統計をこども家庭庁がまとめたもの)。

同じ調査で、2024年度に正規職員が辞めた施設は65.3%。職員の定着の課題でいちばん多く挙げられたのは「保育業務の責任や負担の大きさ」だった。人が足りず、負担の重さが定着の壁になっている。ならば仕事を軽くする。その考えには筋が通っている。

保育所・認定こども園の人手不足と定着

  • 職員が不足している(保育所・認定こども園)42.6%
  • 正規職員が辞めた施設(2024年度)65.3%
  • 職員が不足している施設のうち、理由は「採用したい人数を採用できていない」77.9%
  • 職員が不足している施設のうち、定着の課題に「保育業務の責任や負担の大きさ」を挙げた62.8%
人が足りない施設の多くは、採用できていない。定着の課題は負担の重さが最多独立行政法人福祉医療機構「2025年度 保育所・認定こども園の人材確保に関する調査」(2025年11月19日公表)をもとに当社が作成。融資先の社会福祉法人等3,973法人にWebで調査し(2025年8月15日〜9月5日)、1,150法人・1,381施設が回答(回答率28.9%)。不足の理由と定着の課題の2項目は、職員が不足している588施設への質問。全国の園から無作為に選んだ調査ではない。福祉医療機構

採用が大変でも、一斉保育も運動会も音楽会も減らさない

「うんどうかい」の黄色いアーチの前に、水色と白の新しいユニフォームを着た鼓笛の園児が旗とともに並んでいる
運動会の様子。

古賀さんは仕事を軽くする道を選ばなかった。

いま保育の世界では、子どもが自分のやりたいことを選ぶ自由保育が主流になっていると古賀さんは話す。光和保育園はクラス全員でそろえる一斉保育を続ける。集団生活を学ぶ場だと考えるからだ。古賀さんは、流行があっても変えてはいけないものがあると考えている。

うちはそこは頑固に、一斉保育はきちっとします。

古賀 良和

自由保育を志望する学生には、うちは違うと伝える。一斉の活動は、ほかの園でも珍しくはない。ベネッセ教育総合研究所の2018年の調査(保育所2,321園)では、私営保育所の62.4%が体操を、55.8%が音楽活動を、クラス全員で行っていた。違いは、人が足りない状況でも、その活動を減らさずに続けているところにある。

一斉保育を続けるからこそ、古賀さんが職員に日ごろ伝えていることがある。いちばん大事なのは、思いやりと優しさだ。行事で厳しくなるほど当たりが強くなりやすいので、一人ひとりを大切にした思いやりと優しさを基本に置く。全員でそろえる保育と、一人ひとりを見る保育は、光和保育園では並んでいる。

相撲大会や音楽会にも出る。音楽会は、福岡の音楽ホールに園が集まり、何千人も入る会場で開く。そこでピアノを弾くのは緊張するもので、年長組を受け持つ先生は嫌がると古賀さんは話す。それでも、年長を受け持って終えた先生が「卒業させました」という気持ちを持つのは、他の園よりかなり大きいのではないかと見ている。

クラス全員で一斉に行う活動(通常の保育時間内、私営保育所)

  • 体操(組体操など)62.4%
  • 音楽活動(鼓笛隊など)55.8%
  • ひらがな(書き)の練習51.6%
一斉の活動は、私営保育所の半数以上が行っているベネッセ教育総合研究所「第3回幼児教育・保育についての基本調査」(2018年11月)をもとに当社が作成。全国の幼稚園・認可保育所・幼保連携型認定こども園の園長等が回答した有効回答4,565園のうち、保育所は2,321園(私営保育所だけの回答数は資料から確認できていない)。ベネッセ教育総合研究所

仕事を楽にしたら保育園は終わると、元教員の園長は考えている

ホールの舞台に園児が並んで演奏する、ちびっこ音楽会の様子

古賀さんは、採用がいまの課題だと認める。努力しているのは保育の中身で、そこを変えない代わりに採用が大変になる。

職員が少々来なくても、そこは私がいちばん努力しているところで、職員採用はだからこそ大変なんです。でも、そこを楽にしたら保育園も終わりだと思っているので、10年後、20年後に差が出ると思っています。

古賀 良和

理由は、保育園を預かるだけの場所と考えていないことにある。働く人のための施設という大事な役割を果たしながら、子どもを育てる、教育する場でもありたい。そうであれば、より素晴らしい教育をしたほうがいい、と古賀さんは考える。古賀さんは学校の教員を長く務めた。そう考えるのは元教員だからかもしれない、とも話す。

いま福岡市は人口が増え、園児は来ている。ただ少子化は確実に進む。少子化が進んだとき、より素晴らしい教育をしてきた園と、仕事を減らして採用を楽にした園とで差が出る。古賀さんはそう見立てている。

見学で大変さを正直に話し、休みと福利厚生を充実させる

ホールの階段に、園児と大人が何列にも並んで写った集合写真

人が足りない状況で仕事を減らさない。古賀さんがしていることは2つある。

一つは、採用の入り口で正直に話すこと。最初のころは「楽しいよ」とだけ言っていたが、それではミスマッチが起きる。そこで「大変です」と言うようにした。その代わり、やりがいと達成感の大きさも伝える。実際に光和保育園の職員もそう感じているという。

大変だと伝えても、人が来るとは限らない。

人は来ないですけどね。元々が楽でいいよって言っても来ない世界だから。

古賀 良和

ゼロではない。今年も受験者が来て、取材の前の週には広島から学生が試験を受けにきた。県外出身の職員は、九州各県を中心に13人いる。鹿児島出身の保育士は4人いる。光和保育園を卒園して保育士になった人も2人いる。

もう一つは、仕事が大変な分だけ、それ以外を働きやすくすること。休みは理由を言わなくても取れる。小学校3年生以下の子どもがいる保育士は28人いて、一人あたり40時間まで取れる看護休暇がある。子どもの発熱で誰かが休むのがふつうだと考え、人員を多めに置く。職員全員に保険をかけ、仕事以外でもけがや事故で保険金が出る。PayPayドームの年間シート4席を、2席ずつ順番に使えるようにしている。余ったお金は全部、職員が働きやすくなることと、保育に使えばいいと古賀さんは考えている。福利厚生を続けることは、毎年の投資だという。

古賀さんが話した、働きやすさの数字

  • 28人小学校3年生以下の子どもがいる保育士。看護休暇は一人40時間まで。誰かが熱を出して休むのがふつうと考え、人員を多めに置く
  • 4席PayPayドームの年間シート。2席ずつ順番に使う
  • 13人県外出身の職員。九州各県を中心に
  • 2人光和保育園を卒園して、保育士になった人
大変さを話しても、人が来ないわけではない。働きやすさも具体的に整えている

誰も辞めない園は変わらないと考え、毎年必ず何人も採用する

園庭の芝の上に、帽子をかぶった大勢の園児が座り、前で話す先生を見ている

古賀さんは、職員が辞めないことを良いこととは考えていない。

誰もやめないということは、誰も変わらないということで、全然活性化しないですよね。

古賀 良和

毎年何人かは入れ替わってほしいと古賀さんは考えていて、そのぶん毎年、必ず何人も採用する。

採用は大変なんですよ、毎年。

古賀 良和

職員が95人いれば、誰かは必ず辞める。事情はそれぞれで、去年は5、6人が辞めた。辞めたいと相談されたときは、退職後のことを聞いて、内容によっては仕方がないと認める。強引に引き留めはしない。学校には人事異動があり、毎年4月が「リフレッシュスタート」になると古賀さんは話す。一般の保育園には異動がなく、同じ人が何十年も勤めることがある。それにはいい面も悪い面もあると、古賀さんは一般論として話す。

新しい人が入るから、新しい意見を取り入れられる。リーダー研修で、職員が自分を振り返る機会をつくってきた。

学校の先生を38年続けた人が、父の保育園を継いだ

古賀さんは大学を出て、60歳の定年まで公立学校の教員を務めた。最初は小学校の教員で、校長としては中学校の校長も務めた。

保育園は、父が40歳ごろに始めた。父は高校の教員で、定年後の仕事ができるようにと保育園を勧められたという。古賀さんは2016年に副園長として入り、その年のうちに理事長になった。翌年に園長を引き継いだ。いま続けている行事や取り組みには、父が始めたものが多いという。

継いだあとに古賀さんが変えたのは、職員が意見を言いやすくすることと、福利厚生を充実させることだった。保育園の評判そのものは、あまり変わった感じはしないと話す。

数字で見る光和保育園の違い

創立は1971年。職員は95名。本園の定員は310名。本園、分園、小規模保育園を一つの園として運営し、人事もこの中で行っている。

福祉医療機構の調査(2025年度・1,381施設)では、職員が足りない保育所・認定こども園は42.6%、2024年度に正規職員が辞めた施設は65.3%だった。福岡県の保育士の有効求人倍率は2.48倍(2025年4月)。その中で光和保育園が選んだのは、一斉保育も行事も減らさず、大変さを正直に話して、休みと福利厚生を充実させる道だ。

  • 95名職員(本園・分園・小規模保育園)
  • 310名本園の定員
  • 3施設本園・分園・小規模保育園。一つの園として運営し、人事もこの中で行う
  • 2.48倍福岡県の保育士の有効求人倍率(全職種平均は1.18倍)
人が足りない状況で、行事も一斉保育も続けている職員数は2026年10月時点。有効求人倍率は2025年4月で、こども家庭庁が厚生労働省「一般職業紹介状況」をまとめたもの(2025年8月6日付)。こども家庭庁

光和保育園のやり方を、自分の会社で使うための3つのこと

一つめ。人が採れないときは、仕事を減らして応募を増やす前に、変えないものを先に決める。古賀さんにとってそれは、一斉保育と行事の中身だった。

二つめ。採用の場で、仕事の大変さを正直に話す。楽しいところだけを話すと、ミスマッチが起きる。大変さと、それでも得られるものを同じ重さで伝える。

三つめ。仕事が大変な分は、休みや福利厚生で働きやすくする。仕事の中身を守ることと、働きやすい職場にすること。この2つを、別々のやり方で両立させる。

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