※取材にもとづく編集記事です

VOL.008 その他 公開 / 更新

商品は性能ではなく
買った会社の仕事がどう変わるかで選ばれる

ふつうは 植物工場の多くは、効率よく、品質をそろえて、安定して作るための研究に力を入れる。売るときは作った野菜を勧める。

この会社は 買う会社がどう得をするかを、お客様の製造工程と1年の計画、10年先の人手まで数えて提案する。露地の約3倍の値段で買ってもらう。

工場で野菜を作る会社の多くは、どうすれば効率よく、品質をそろえて、安定して作れるかに力を入れる。兵庫県丹波篠山市でレタスを作る株式会社モーベルファームの代表取締役、森優さんが力を入れているのは提案だ。買う会社がどう得をするかを、その会社のメニューと製造工程、1年の野菜の仕入れの計画から逆算して伝える。2019年に工場を作ったときには、お客様の店舗や工場で10年先に働く人がどう変わるかまで数えていた。露地の野菜の約3倍の値段をつけたまま、外食の会社を中心にお客様を増やしてきた。

株式会社モーベルファーム。室内の工場でレタスなどの葉物野菜を作り、外食や食品の会社に売る。本社は兵庫県丹波篠山市。2020年8月設立。従業員はパートタイマーを含めて78名、売上規模は約10億円(2026年9月期)。

業種
植物工場でのレタスなど葉物野菜の生産・販売(外食・食品会社向け)
所在地
〒669-2432 兵庫県丹波篠山市八上内10-1
従業員数
78名(パートタイマーを含む)
売上規模
約10億円(2026年9月期)
設立
2020年8月
拠点
本社・丹波篠山工場(丹波篠山市)・養父工場(養父市)
話を聞いた人
森 優(代表取締役)
株式会社モーベルファーム 代表取締役 森優さん。紺のスーツに青いネクタイで、黄色い葉の生け垣の前に立って笑顔でいる

工場の野菜を売る電話で「そんな高いものをなぜ買うのか」と毎回聞かれた

工場の栽培棚。白い光の下で、段ごとにレタスが並んで育っている
モーベルファームの工場の栽培棚。

工場で作るレタスを売り始めたとき、森さんにはつてがなかった。会社のホームページに載っている代表電話にかけ、話を聞いてくれる人に会いに行った。最初に話すのは、外食や食品の会社で野菜を仕入れる担当者や、商品開発の担当者だ。森さんは会うたびに「そんな高いものをなぜ買う必要があるのか」と聞かれた。誰に会っても、必ず聞かれたという。

工場の野菜は、露地の野菜の約3倍の値段をつけないと会社に利益が残らない。工場での生産は物づくりなので、人件費も電気代も、作るたびにかかるコストを積み上げて値段が決まる。これは今も変わらないと森さんは話す。森さんが考えたのは、3倍の値段に見合うものは何か、それを相手にどう伝えるかだった。

国産野菜を使う外食の半数は「値段が高い」と答え、人工の光で育てる植物工場の約6割は赤字だ

農林水産省が2021年に外食産業396事業所に聞いた調査では、国産の加工・業務用野菜を使うときの課題で最も多かったのが「値段が高い」で、49.5%が挙げた。国産の利用を増やすために必要なことは、62.6%が「価格の低下」、40.9%が「安定的な数量確保」と答えている。

作る会社も楽ではない。日本施設園芸協会が2025年3月にまとめた調査では、人工の光で育てる植物工場のうち、直近の決算が黒字だったのは15%で、59%が赤字だった(回答41件)。かかるコストのうち、回答の平均で人件費が33%、電気代が26%を占める。

業界の多くが力を入れるのは作る工程だ。どうすれば効率よく、品質をそろえて、安定して作れるかを研究する。生産の効率を上げることには動いていても、提案に目を向ける会社は少ないのでは、という問いに、森さんは「本当にそうだと思います」と答えた。農作物の営業では「こういうものがあります。どうですか?」と作った野菜を勧める形が圧倒的に多い、と森さんは見ている。

国産の加工・業務用野菜について外食産業が答えたこと

  • 国産を使うときの課題は「値段が高い」49.5%
  • 増やすために必要なことは「価格の低下」62.6%
  • 増やすために必要なことは「安定的な数量確保」40.9%
買う会社は、値段と量の安定を見ている農林水産省「加工・業務用野菜の実需者ニーズに関する意識・意向調査結果」(2022年1月公表、調査は2021年、外食産業 N=396事業所。複数回答)をもとに当社が作成。

3倍の値段の理由を、買う会社で起きる変化で示した

森さんは、3倍の値段の理由を野菜の出来だけで説明しなかった。露地のレタスと工場のレタスを1玉の値段で並べれば、相手は値段を見比べる。

同じ土俵で提案してしまうと、ただの価格だけの話になってしまいます。

森 優

森さんは2019年に工場を作ったときから、3倍の値段に見合うものは何かを、買う会社で起きる変化から探してきた。年間を通して同じ量が届くこと。室内で育てるので虫や異物が付かず、菌の数も少ないこと。森さんは、それが相手の会社で何を変えるかまで話す。お店や工場で虫や異物を取り除く工程は、限りなくゼロにできる。ひとつの問題がSNSで一気に広がる今は、異物が混ざるリスクを避けられることも、外食の会社には大きいという。

この進め方は、森さんが前の職場で身につけたものだ。三菱電機で工場の自動化設備を提案する営業を約7年していたころ、似た製品は世の中にいくらでもあった。単品の性能には差があっても、それほど大きな差ではない。森さんはそこで、入れたあとにお客様の作業や人の動きがどう変わるか、歩留まりがどう上がるかを分かってもらう営業を学んだ。

3倍の値段の理由を、どこで示すか野菜そのもので示す買う会社の変化で示す露地のレタスと1玉の値段で並べる工程・リスク・1年の仕入れ計画が変わるただの価格だけの話になる会社全体のコストで比べてもらう
同じ土俵に乗らず、買う会社の側で比べてもらう

お客様のメニューと製造工程から逆算すると、異物検品・殺菌・脱水の工程がいらなくなる

森さんは提案の前に、お客様の商品を知る。メニューは何か。そのメニューのコンセプトは何か。どういう製造工程を経てその商品ができているか。

お客さんのメニューがどうあって、メニューのコンセプトが何で、どういう製造工程を経てこの商品ができているから、うちはこういう提案をします、という逆算式で提案していきます。

森 優

逆算すると、お客様の工場や店舗で野菜にかかっている工程が見えてくる。露地の野菜は土で育つので菌の数が多く、生のまま出すには、届いた野菜を検品して異物を取り除き、殺菌し、脱水する工程が必ず要る。その工程には人件費も設備のコストもかかる。モーベルファームの野菜なら、この工程をまるごと省ける。入口で買うレタスの値段は3倍でも、加工までの全体で見ると、入口の差は後ろの工程のコストで埋まってくる。買う会社全体のコストで見れば実はトントンぐらいになる、と森さんは説明する。

話す中身は相手によって変える。電話のあとに最初に会う仕入れや商品開発の担当者には、品質が安定していることと、工程の作業がどう変わるかを中心に話す。検討が進み、決裁の権限を持つ人と会うときには、経営の目線の話を織り込む。

買った野菜を、お客様の工場や店舗で使うまで露地の野菜モーベルファームの野菜届く届く検品して異物を取り除くいらない殺菌するいらない脱水するいらない加工・調理する加工・調理する入口の値段は3倍。後ろの工程のコストまで足すと買う会社全体ではトントンぐらい
工程を省ける分、入口の値段の差が埋まる「トントンぐらい」は森さんの説明。

お客様の1年の野菜の仕入れの計画と、10年先の人手まで数えて提案の中身を決めた

経営の目線で森さんが話すのは、1年の計画だ。露地の野菜を使っている限り、仕入れの計画を立てても、量も値段も必ずぶれる。モーベルファームの野菜は年間を通して量が一定なので、お客様はコストも含めた仕入れの計画を立てられる。経営者から見ると、そこが安定するメリットは大きいと森さんは話す。

森さんが見ていたのは1年先だけではない。2019年に工場を作ったころ、レタスは1玉90円台の時期もあるほど安かった。それでも森さんは10年先、15年先を見ていた。農業をする人は高齢になり、加速度的に減っていく。国の人口も減るが、作る人が減る速さのほうが早いことはデータで分かっていた。野菜の値段は、食べる量と作る量の釣り合いで決まる。作る人が先に減れば、露地の相場は上がっていく。今は高いと思われている工場の野菜も、10年先にはそれほど高くないと思われるようになるはずだ、と森さんは考えた。

もう一つ数えたのが、お客様の会社で働く人の変化だ。高齢の人が増えれば、工場で働く人も、店舗で調理する人も、人数や仕事の質が変わる。作業はできるだけ簡単にしないと回らなくなる。店舗や工場でしている検品・殺菌・脱水の工程を省ける野菜は、間違いなく提案の柱になる。森さんは2019年の時点でそう考えていた。

2019年に森さんが見た、10年先作る人が減る速さは、国の人口が減る速さより早い露地の野菜の相場は上がっていくお客様の工場や店舗は作業を簡単にしないと回らなくなる工場の野菜はそれほど高いと思われなくなる検品・殺菌・脱水を省ける野菜を提案の柱にする
2019年の時点で、10年先のお客様の人手まで数えた2019年当時の森さんの見立て。

露地の約3倍の値段をつけたまま、外食の大手のお客様も増えてきた

白い台に置かれた、葉のふちが細かく波打つ緑のレタス
出荷するレタス。

「そんな高いものをなぜ買う必要があるのか」と聞かれるたびに、森さんは後ろの工程の話をし、人手がかからないこと、リスクを減らせること、1年の仕入れの計画が立つことを、粘り強く何回も説明した。いまのお客様は外食の会社が圧倒的に多い。大手のお客様もかなり増えてきたが、まだ取引のない大手の会社も多いという。

新しいお客様を探す方法は今も電話が中心で、営業を担当するのは森さん1人だ。パートタイマーを含む78名の従業員の約9割は、工場で野菜の生産を管理する人たちが占める。同業と比べた強みは提案の力かと聞かれ、森さんは「圧倒的にそこかなと思いますね」と答えた。

社会の根幹に関わる仕事がしたかった社長が、三菱電機を出てレタスを作り始めた

育ちはじめのレタスの苗。広がった葉の中心に、小さな葉が重なっている
育ちはじめのレタスの苗。

森さんは大学を出たあと三菱電機に入り、工場の自動化設備を提案する営業を約7年担当した。農業にはまったく関わっていなかった。学生のころから、社会の根幹に関わる仕事がしたいと考えていた。その考えは変えずに仕事の種類を変えようとしたとき、食の分野が目に留まった。父は設備の設計をする会社を経営し、植物工場向けの設備を設計する仕事もしていた。森さんはそれを横目で見ていた。

2019年、台風で畑がだめになり、スーパーで白菜が1,000円になったと言われ始めた時期に、森さんは工場を作った。外食やコンビニでは、工場の野菜はほとんど使われていなかった。安定した量と品質の良い野菜を求める声は、表に出ていないだけで確実にある。売り方と提案の仕方しだいで市場を一気に大きくできる、と森さんは見た。

販売には自信があったと森さんは言う。心配したのは作る方だった。会社には技術者と呼べる人がおらず、農業を専門にしていた社員も1人もいない。最初の1年は計画どおりに育たなかった。種まきから収穫まで36日なので、1年目に10回以上栽培を重ねて育て方の条件を探し、2年目から計画に載せた。

数字で見るモーベルファームの違い

設立は2020年8月。従業員はパートタイマーを含めて78名で、売上規模は2026年9月期で約10億円。営業を担当するのは森さん1人で、お客様は外食の会社が圧倒的に多い。

値段は露地の野菜の約3倍。そのかわり、お客様の工場や店舗では異物検品・殺菌・脱水の工程を省ける。買う会社全体のコストで見るとトントンぐらいになると森さんは説明する。

国産野菜を使う外食の49.5%が「値段が高い」を課題に挙げる(農林水産省、2021年)。その中で、モーベルファームは値段の理由を、買う会社の仕事がどう変わるかで示している。

  • 約10億円売上規模(2026年9月期)
  • 78名従業員(パート含む)
  • 約3倍露地と比べた値段
  • 1人営業(森さん)
値段の理由を、買う会社の変化で示してきた数字

モーベルファームのやり方を、自分の会社で使うための3つのこと

一つめ。自社の商品が高いと言われたら、商品の出来を説明する前に、買う会社の中で何が減り、何が楽になるかを数える。商品だけを並べると、比べられるのは値段だけになる。

二つめ。提案の前に、相手の商品と作り方を知る。お客様のメニューと製造工程から逆算すれば、自社の商品が相手のどの工程をなくせるかが見える。

三つめ。相手の1年の計画と、10年先に働く人の変化まで数える。量と値段がぶれないこと、人が減っても作業が回ることは、今年の値段とは別の得として相手に伝えられる。

この記事を読んで、自分の会社にも「これって普通じゃないのかも」と思う何かがあるかもしれない、と感じた方へ。

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