※取材にもとづく編集記事です

VOL.002 医療・福祉・介護 公開 / 更新

一等地は狙わない。
同業が避ける仕事で14店舗に広げた戦略

ふつうは 休日と効率の悪さを理由に介護施設の薬には手を出さない。

この会社は 遠くても頼まれたら行き、施設の薬を丸ごと引き受ける。

明るい茶色の髪で、薬局の前で大きく笑う社長がいる。とまと薬局グループは、休日も呼ばれて手間もかかる介護施設と在宅の薬を引き受けると決めた。遠くても、頼まれたら行く。処方箋は断らない。そのために人の育て方と休み方まで作り直した。

とまと薬局グループ(有限会社スケガワ・株式会社アイファーマ)。調剤薬局を、埼玉・東京・茨城・福島で14店舗。本部は東京都荒川区西日暮里。2003年、埼玉県東松山市で一号店を開いた。従業員は2社あわせて127名。

業種
調剤薬局(外来・介護施設・在宅)
所在地
〒116-0013 東京都荒川区西日暮里2丁目26-12 ガーネットビル1階
従業員数
127名(有限会社スケガワ 82名・株式会社アイファーマ 45名)
設立
2003年(有限会社スケガワ)
拠点
14店舗(埼玉・東京・茨城・福島)
話を聞いた人
助川 健(代表取締役)
とまと薬局グループ 代表取締役 助川健さん。薬局のガラス戸の前で、歯を見せて笑っている

父は商売を次々に始め、叔母は薬局を営んでいた

茨城県日立市の生まれ。父は大手企業に25年勤めたあと会社を辞め、保険の仕事、カラオケ店、介護のNPOと、次々に商売を始めた。その背中を見て、自分もいつか商売をすると決めていた。

東京で薬局を営んでいた叔母がいたから、薬局を選んだ。大学を出て叔母の薬局で2年働き、そのあと開業支援の会社で30軒ほどの薬局を回った。30歳で一号店を開いた。

当時は休日もほとんどなく働き詰めの毎日でしたが、不思議と辛いと思ったことは一度もありませんでした

助川 健(在宅医療com 2026年7月)

多くの薬局は病院の前で処方箋を待つ

薬局はクリニックのすぐそばで処方箋を待つ商売として続いてきた。大手チェーンは資金力で病院前の好立地を押さえ、医療ビルまで自分で建てる。

介護施設の薬はその反対側にある。入居者ごとに薬を一包にまとめ、錠剤を砕き、残った薬を数え、麻薬の管理まで受け持つ。医師の往診にも付いていく。休みの日も対応が要る。

とまと薬局グループの会社案内にはこう書いてある。「休日や効率の悪さを理由に、施設医療に介入する薬局は少ないのが現状」。

とまと薬局グループは手のかかる在宅医療に本気で取り組むと決めた

とまと薬局の店舗の外観。入口の上に「処方せん受付」の看板がある
とまと薬局の店舗。

きっかけは4店舗目を出したときだった。門前の医師に、近くの施設を診るから協力してほしいと頼まれた。

頼まれたから引き受けた、というだけではない。大手と同じやり方で正面からぶつかっても、速さでも資金でもかなわない。国は在宅医療を強く推していたのに、本気で取り組む薬局はまだ少なかった。

手のかかる在宅医療に本気で取り組むことこそが、私たちが地域で生き残るための唯一の活路だと確信したのです

助川 健(在宅医療com 2026年7月)

いまは遠くても訪問の依頼があれば引き受ける。その周りで担当する施設が2、3件に増えたら、近くに薬局を1つ作る。店は引き受けた仕事のあとからできていく。

在宅は薬局の外で戦う「アウェイ」だった

とまと薬局グループのスタッフ。マスク姿で青いクリップボードを胸に抱えている
とまと薬局グループのスタッフ。

順調な出発ではなかった。一号店は透析クリニックの門前で、一般の外来が少なく、患者さんが集まらずに苦労した。

在宅に踏み込むとお金もかかった。専用の車、複雑な調剤のための高性能な分包機。薬局は開業資金が少なくて済むと思われがちだが、在宅を本気でやるとそうはいかない。

人もかかる。2025年に開いた日暮里店は土日も祝日も365日開けている。休みなく開け続けるには、ふつうの1.5倍の人数が要る。それでも薬剤師を2人置いている。1人が訪問に出ても、店の機能を止めないためだ。

薬剤師の側も変わった。中途採用の必須条件は、薬剤師免許と普通自動車免許の2つ。施設へ車で回るからだ。

私たちが主戦場とする在宅医療は、薬局という「ホーム」から外に出て行く、いわば「アウェイ」での厳しい戦いです

助川 健(在宅医療com 2026年7月)

その結果、経験者を待たずに育てる会社になった

白衣の薬剤師が、調剤室のパソコンに向かって入力している
調剤室で働く薬剤師。

施設の薬には、ふつうの薬局より高い技術と速さが要る。それを経験者だけで回そうとすると、人が集まらない。だから採用では学歴を問わず、人柄と「やってみたい」という意欲を見る。毎月一人ずつ面談をする。

人事を担当する山内隼平さんは、もとはコピー機の営業だった。ほかの会社の募集はほとんどが経験者限定だったが、ここは経験を問わなかった。

長く続けてもらう仕組みも作った。一部の店では1日10時間働いて週に3日休む。借り上げ社宅は家賃の8割を会社が持つ。副業も勧めている。

平社員で入った斎藤祐太朗さんは、4年半ほどでゼネラルマネージャーになった。LINEで処方箋を予約できるようにし、向かいのゲームセンターと組んでゲーム券を配った。患者さんからは「珍しい薬局だね」と言われるという。

もし大手と同じ好立地を取りにいっていたら、いまの14店舗はなかった

病院前の一等地を取り合う勝負なら、資金のある大手が勝つ。同じ手法で向き合っても限界がある、と助川社長は話している。一号店で患者さんが集まらなかった経験もある。

かわりに卸や病院から舞い込んだ話にはすべて挑戦してきた。無理に広げる野心はない。縁がつながった場所に薬局を置く。その積み重ねが、4つの都県の14店舗になった。

周りの経営者から見ると、助川社長は義理堅い人だ。破天荒に見えて、やると決めたことはどれだけ大変でもやる。経営に行き詰まった同業の薬局があれば、買い取って運営を引き継ぎたい、とも話している。引き受けるものが施設から薬局そのものに広がろうとしている。

患者さんは「ここなら何とかしてくれる」と期待して処方箋を持ってきてくださるわけですから、そこでお断りしてしまうのは違うと思っているんです

助川 健(在宅医療com 2026年7月)

前の薬局から移ってきた薬剤師は入社してから自動車学校に通った

薬局の中で、助川社長とスタッフ10名が集まって笑っている。社長は菓子箱を、隣のスタッフは花束を持っている
前列左、菓子箱を持っているのが助川社長。

薬剤師の古川愛恵さんは前の薬局で、新しいことを提案しても通らなかった。助川社長の「チャレンジは大歓迎」という姿勢に惹かれて、とまと薬局に移った。

ところが、施設を回るのに必要な車の免許を持っていなかった。

仕事が楽しくなるうちに、「もっと会社に貢献したい!」と思い、働きながら自動車学校に通って免許を取った。いまは薬剤師を続けながら、マネージャーとしてスタッフの配置を決めている。

薬局で患者さんに「古川さん!」と気軽に挨拶してもらえた時には、一番身近に「薬剤師やっててよかった!」と実感できますね!

古川 愛恵(薬剤師・マネージャー)

本項は、とまと薬局グループの採用サイトに掲載されているご本人のインタビューから構成しました。

数字で見るとまと薬局グループの違い

店舗は14。埼玉に8、東京に2、茨城に3、福島に1。従業員は2社あわせて127名。

日暮里店は365日営業。草加店は年中無休で、夜10時まで開いている。

年間休日は週休3日の店で156日、ほかの店で120日。借り上げ社宅は家賃の8割を補助(上限8万円)。

数字は公式サイトの記載(2026年9月時点)です。週休3日は一部の店舗で導入しています。助川社長の発言は、在宅医療comのインタビュー記事(2026年7月)から引用しました。

グループの理念は「関わる人を笑顔にする」。

施設の薬を引き受け、未経験の人を引き受け、断られそうな処方箋を引き受けてきた。

その先で、患者さんが薬剤師を名前で呼ぶ。

この記事を読んで、自分の会社にも「これって普通じゃないのかも」と思う何かがあるかもしれない、と感じた方へ。

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