毎週のように現場に出て、お客様の様子も社員の動きも自分の目で見ている。一方で、数字や仕組みも見なければと言われ、どちらを優先するか決めきれない。

現場に出るのをやめたいわけではありません。人手が足りず自分が出るほうが早く、現場の様子が分かる安心もあります。日経トップリーダー編集部が2025年4月に、従業員30人以上300人以下の中小企業の社長200人に聞いた調査では、自分も現場の実務をしている社長が47.5%でした。理由は「人手が足りないから」が51.6%、「士気向上につながるから」と「現場の様子が分かるから」が各38.9%です(日経ビジネス電子版)。迷っているのは、あなただけではありません。

先に結論を書きます。現場を優先するか、数字や仕組みを優先するかは、どちらか一方を選ぶ話ではありませんでした。分かれ目は、現場に出る目的が決まっているかどうかです。基準は3つで、出る目的が決まっているか、決める時間を先に確保したか、社員が社長に聞かず自分で決められるか、です。この記事では、3つの基準の使い方と、現場に出ても判断がつかないときの手順を書きます。なお、現場を優先する会社と数字や仕組みを優先する会社の業績差を示した、日本の中小企業の統計は見つかりませんでした。分からないことは、分からないと書きます。

現場優先か数字・仕組み優先か、分かれ目は現場に出る目的が決まっているか

X(旧Twitter)で「現場主義 経営者」を探すと、経営者を2つに分ける言い方が見つかります。現場の熱意と人の気持ちを重んじる現場主義の経営者と、数字と仕組みと効率を重んじるシステム型の経営者です。どちらが正しいわけではない、と断ったうえで、自分は前者だと書く人もいます。いっぽうで、現場主義を理由に社員へ任せない経営者は好きになれない、という投稿もあります。検索結果の上位にも、現場主義と言いながら全体最適を見失っている人がいる、と書いた記事があります(大塚商会)。

では、どちらが会社を強くするのでしょうか。経営者の動き方と会社の生産性を調べた研究は見つかりました。6か国のCEO 1,114人の1日の動きを記録して分けたもので、複数の部門が集まる会議を中心に動く型と、コア部門との1対1の会議が中心で生産に関わる従業員と過ごす時間が長く工場見学も多い型に分かれます。複数部門の会議が中心のCEOの会社は、平均して生産性が高くなっていました。ただし、論文の結論は「どの会社にもその型がよい」ではありません。会社とCEOの動き方の相性が大事で、調べたCEOの17%は会社との相性が合わず、生産性の損失と結びついていました(Bandiera ほか、米国の経済学誌に2020年に載った研究。掲載ページ)。調べた会社は従業員の中央値が300人で、中小企業より大きい点にも注意が要ります。

日本の中小企業では、現場を優先する会社と数字や仕組みを優先する会社を比べて、どちらの業績がよいかを示した統計は見つかりませんでした。つまり、どちらが勝つかを決めるデータはありません。分かれ目になるのは、会社との相性と、自分の時間の使い方です。

当社は、現場と数字の二択にしません。目的が「判断の代わりに動く」になると、経営者は現場の担当者の仕事を肩代わりして、決める時間がなくなります。目的が「お客様が叶えたい未来のヒントを得る」なら、現場は判断の材料になり、数字や仕組みは、そのヒントを判断の基準に書き直す入れ物として働きます。経営の責任(業績や、お客様への安心の約束)は経営者が負い、現場にはお客様に集中できる環境を渡す。これが当社の考えです。

目的が決まっているかを確かめる基準は、次の3つです。

  1. 現場に出る目的が決まっているか。出る前に、その日に聞くことを1つ決めています。
  2. 決める時間を先に確保したか。週の予定に、現場に出る時間より先に、決める時間を入れています。
  3. 社員が社長に聞かず自分で決められるか。出ない日に、社員が自分で決めたことがあります。

この3つで分けると、現場に出る経営者は4つの形に分かれます。

▲ 決める時間を先に確保した ▼ 後回しになっている ◀ 決まっていない 決まっている ▶ 横軸:現場に出る目的が決まっているか 縦軸:決める時間を先に確保したか 1 目的を持って見て 決める時間も取る 目指す形 2 現場から離れて 数字だけを見る 3 目的はあるが 判断が後回し 4 判断の代わりに 現場で動く
現場に出る経営者の4つの形 位置は当社の整理で、調査で測ったものではありません。

1が目指す形です。2は、数字は見ているものの、お客様と社員の様子を見ていません。3は、見に行く目的はあるのに、見たことが判断に変わる時間がなく、現場の話がたまっていきます。4は、現場の担当者の代わりに動いている状態です。

決める時間を先に確保するとは、時間の配分を変えることです。社長の1週間40時間を例に、2通りを同じ前提で並べます。前提は当社が置いた例で、実際の割合は会社ごとに違います。

1週間40時間の配分(例)現場を先にした配分決める時間を先に取った配分
自分で売る12時間10時間
現場を見る18時間12時間
決める(数字を見る・基準を書く・社員に渡す)4時間(10%)10時間(25%)
会議・事務・移動6時間8時間
合計40時間40時間

数字は当社が置いた例です。実際の会社の調査結果ではありません。

現場を見る時間は18時間から12時間に減り、決める時間は4時間から10時間に増えます。先の3つの基準の2つ目は、この決める時間を先に取ったかどうかです。

社長が現場に出る会社は、困ったときに何が違うのか

先に答えると、現場に出ること自体の良し悪しを決める統計は見つかりませんでした。分かっている範囲を書きます。見た人は、経営者本人です。

ラクスルが2026年2月に、従業員2〜100名の中小企業の経営者・幹部300名にインターネットで聞いた調査があります。現場対応への介入が「ほぼ毎日」は13.7%、「週2〜3回」は16.0%でした。戦略立案や重要な意思決定に十分またはおおむね時間を割けている割合は、介入が「ほぼ毎日」の層で22.0%、「ほとんど介入なし」の層で49.4%です(ラクスル)。ただし、因果は言えません。介入が多いから時間が取れないのか、時間が取れない会社だから介入が増えるのかは、この調査からは分かりません。

経営幹部が現場を訪ねる効果を調べた研究も2本あります。1本目は、ラテンアメリカの銀行で、小売部門長が79支店を訪ねた実験です。演説のあと2〜3時間ほど、業績の話をせずに従業員と交流しました。預金額や金融商品の販売は、訪問の告知から増え始め、訪問の直後にピークになりました。効果は少なくとも1か月、場合によって2か月続き、その後は元の水準に戻っています。研究者は、自分の仕事に意味があると感じた従業員が動機づけられた、と解釈しています(Casas-Arce ほか。アリゾナ州立大学の解説)。1つの銀行での実験で、ほかの業種で同じことが言えるかは確かめられておらず、訪問が他の経営活動と比べて割に合うかも、著者自身が未検証と述べています。

2本目は病院の研究です。経営幹部が現場のスタッフと話して問題を見つける取り組みを、ランダム化した実験で調べたところ、業務パフォーマンスは悪化しました。役に立ったのは、幹部が見つけた問題を自分で引き受けたときだけです(Tucker と Singer、2014年。PSNet の要約。要約ページで確認した範囲で、病院の数や実験の設計は確かめていません)。

2本を合わせると、現場に行くだけでは足りず、見つけた問題を引き受けたかどうかで結果が分かれた、と読めます。

業種や会社の規模で、現場主義が合う・合わないは変わるのか

Yahoo!知恵袋には、親から継いだ運送会社を経営する二代目の相談があります。現場主義は量販店のような商売に向いたやり方で、運送業には合わないのではないか、この考えは間違っているか、という質問です。検索結果の上位に出てくる事例は大企業が中心で、小さな会社の話は見出しにありません。

業種や規模で現場主義の効果が変わるかを比べた調査は、見つかりませんでした。日経トップリーダー編集部の調査は従業員30〜300人、ラクスルは2〜100名、先のCEO研究の中央値は300人で、どれも業種別の比較ではありません。

当社は、業種で決めません。1つの拠点で一定の期間だけ試し、見たことが判断に変わったかで確かめます。

ある拠点で、現場に出る担当者がお客様に「叶えたい未来」を聞く取り組みを試しました。危険な箇所を事前に確認したことが、追加の注文につながった事案が出ています。一方で、話が増えた分だけ訪問は長くなり、現場には「生産性は悪化している感覚」が出ました。残業は減っていません。新規の依頼につながったかどうかは、因果関係が分からないままです。入社して間もない人には、聞くことを基礎に絞り、願いを問うのは基礎ができてからにしました。

この結果は、取り組みが成功か失敗かを決めるものではありません。見るのは、見たことで決めたことが1つ言えるかと、決める時間が削られていないかです。うまくいったかどうかを数字だけで決めず、判断が変わったかも合わせて見ます。

現場に出る社長に起きやすいことは、現場の声が一部の人の不満に偏ること

現場に出ると、話しかけてくるのはいつも同じ人です。声が大きい人や、会社に不満がある人の話は社長の耳に入り、静かな人の声は届きません。社長はそれを現場の声として受け取り、会社全体の声と取り違えて決めます。

現場主義の弱点として、上位の記事は、全体最適を見失うことを挙げています。現場の不満や都合に寄りすぎると、会社全体の戦略や数字が見えにくくなる、という指摘です。ただし、この弱点がどれくらいの会社で起きるかを測った調査は、見つかりませんでした。

当社の考えでは、現場に出る回数は変えずに、聞く相手を広げます。聞く相手が偏るときは、話しかけてくる人に加えて、静かな人にも聞きます。一部の人の不満を会社全体の声と取り違えないためです。出る日に、自分から話しかけてこない人に聞く時間を、先に決めておきます。

現場に行っても、報告を聞くだけでは現場を見たことにならない

現場に行くと、案内され、幹部から通り一遍の報告を聞き、少し話して帰ることになりがちです。上位の記事に、現場を視察して報告を受け、少し話し合うだけで済ませるやり方は現場主義ではない、と指摘したものがあります(ケアビジネスパートナーズ)。

報告は、すでに誰かが整理した現場です。経営者が見に行く意味があるのは、整理される前の現場です。違いは2つあります。見るものを決めて行ったか、見たことで何を決めたか、です。見るものを決める方法は、後の「現場で見たことを、次の判断の基準に書き直す」で書きます。

自分の現場の使い方を、5つの問いで確かめる

はい・いいえで答えられる5つの問いです。答えが「いいえ」になった問い(3つ目だけは「はい」になった問い)が、手を付ける場所です。

問い当てはまったとき
現場に出る前に、その日に聞くことを1つ決めているか「いいえ」なら、出る前に聞くことを1つ決めます(打ち手1)
帰ったあと、見たことを1行でも書き残しているか「いいえ」なら、見たことを判断の基準として1行ずつ書き残します(打ち手2)
現場で話した人は、毎回同じ人ではないか毎回同じ人なら、静かな人にも聞きます
見たことで、決めたことを1つ言えるか「いいえ」なら、1つ目と2つ目の問いから見直します
出ない日に、社員が社長に聞かず決めたことがあるか「いいえ」なら、現場に出る日と出ない日を分けます(打ち手3)

当てはまった問いが3つ以上なら、現場に出る時間は長くても、判断の材料として使えていない状態です。当てはまった問いが無いなら、先の3つの基準の2つ目、決める時間が足りているかを見ます。

現場で見たことを、次の判断の基準に書き直す

現場に出ても判断がつかないときは、現場に出る目的を置き直し、見たことを決めるための材料に変えます。現場に出ること自体は、良くも悪くもありません。

高齢者向けのサービスを売る会社の経営者は、自分で施設に通って営業と見積もりをしていました。支援に入った側は、現場に行く理由を「営業を取るため」から「ヒントを得るため」に言い直しています。聞くことを「お客様が叶えたい未来」に決めて通うと、以前の趣味に行けなくなった利用者が、今は特定の食べ物を楽しみにしていることまで聞き出せました。経営者本人は「本当にそれで結果が出るのかという怖さがある」と話しています。数字は取っていません。

現場の声と全体の数字がずれたとき、どちらを優先したかを調べた事例は、見つかりませんでした。数で比べられないので、場面ごとに経営者が決めます。見たことを書き残す1行に、数字で確かめたかどうかを添えておくと、あとで読み返したときに判断の根拠が分かります。

見たことを判断に変える打ち手は、次の3つです。

出る前に、その日に聞くことを1つ決める

聞くことの例は「お客様がいま楽しみにしていることは何か」です。1つに絞るのは、多いと聞き流してしまうからです。聞くことが決まっていると、見たことが判断の材料に変わります。現場に出る時間は長いのに、決めるときは勘になっている場合に向いています。

見たことを、判断の基準として1行ずつ書き残す

書き方は「〇〇の場面では、△△を優先する。理由は□□」の1行です。長く書きません。次に同じ場面が来たとき、社員は書かれた1行を見て決められます。現場の判断がいつも社長に集まっている場合に向いています。現場に基準を渡す話を詳しく知りたいときは、任せるほど現場が迷う理由と、基準の渡し方をご覧ください。

現場に出る日と、出ない日を分ける

出ない日には、社員が自分で動く時間と、社長が決める時間ができます。社長が現場にいると、社員が社長の顔を見て動いてしまう場合に向いています。決める時間を先に確保する具体的な方法が、この分け方です。

社長が「現場主義」と言うとき、社員に見えているもの

社員の側からは、社長のことを相談する知恵袋の質問が出ています。社長が決め台詞のように「現場主義」と言うが、現場の実情を知らないと感じる、という書き込みです。社長が「現場主義だから現場から声をあげてほしい」と講演で話したのに、現場には1度しか来ていない、という相談もあります。どちらも打ったのは社員です。

社員に見えているのは、見たことで何が決まったかです。現場に来ても何も変わらなければ、現場主義という言葉は、社員にとって決まりごとの代わりになりません。

ある会社では、意欲のある若手を、新規の依頼を多く取れている先輩の訪問に同行させました。帰ってきた若手は「めちゃくちゃ興奮して帰ってきた」といいます。お客様を主人公にした接し方と、関係先への報告の質を、現場で体で覚えたからです。集中する方向が決まると、苦手意識も減りました。その先輩には、何年も前に担当したお客様の家族から、会社に直接「また世話になりたい」と電話が入ったそうです。数字は取っていません。

経営者が現場に出るだけでなく、現場に強い人に同行させ、現場で何を見るかを決める方法もあります。

現場に出る目的を決め、見たことを社員の判断の基準にしていくまでの全体を、セミナー動画で順に説明しています。

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現場を優先するか、数字や仕組みを優先するかで迷ったときは、先の3つの基準で確かめます。経営の責任は、経営者が引き受けます。現場に出る回数は、その責任を果たすための手段です。