仕入れ値も人件費も上がり、値上げは避けられない。けれど長く通ってくれたお客様や付き合いの長い取引先が離れていくと思うと、値上げの日を決められない。「常連さんに申し訳ない」と先送りしているあいだにも、利益は少しずつ削られていきます。

先に答えをお伝えします。値上げで客はそれほど離れていません。ぐるなびが2022年に飲食店に聞いた調査では、値上げした店の9割で売上が落ちていませんでした。お客様が離れるのは、値段が上がったときより、理由が見えないまま黙って変わったときです。

この記事では、その調査に加えて、中小企業白書、日本政策金融公庫、野村総合研究所などの調査と、中小企業庁の価格交渉ハンドブックをもとに、お客様と取引先に離れられない値上げの進め方をお伝えします。お客様向けと取引先向けの告知の例文、値上げのあと来なくなった人への手当てまで順に書きます。

値上げで客は本当に離れるのか 値上げした店の9割は売上が落ちていない

値上げをためらう理由の第一は、お客様が減ることです。ぐるなびの同じ調査でも、値上げをしない店の理由でいちばん多かったのは「客数が減り、売上に影響するから」で、39.7%でした。ところが、実際に値上げした店に聞くと、売上が落ちた店はわずかでした。

値上げした飲食店の、値上げ後の売上

  • 上がった32.2%
  • 変わらない59.9%
値上げした店の9割は売上が上がったか変わらない ぐるなびが2022年に加盟店367店に聞いた調査(店の回答)をもとに当社が作成。客数・客単価も「増えた」と「変わらない」を合わせて約9割でした。

店が自分で答えた調査で、2022年の数字です。それでも「値上げすれば客が離れて売上が落ちる」という思い込みとは、ずいぶん違う結果です(ぐるなびPRO(2022年の調査))。

では、離れられるのが怖いからと値上げを見送ったら、会社はどうなるのか。2026年版の中小企業白書には、仕入れ値などの上昇分を価格にどれだけ上乗せできたかで会社を分け、5年間の付加価値額(売上から仕入れなどを引いた、会社が生み出したお金)の伸びを比べた図があります。

付加価値額の伸び(2019年から2024年)

  • 上昇分の75%以上を価格に上乗せできた会社+21.1%
  • 25%以上75%未満+19.0%
  • 25%未満+18.2%
  • 上乗せできなかった会社+13.2%
価格に上乗せできた会社ほど付加価値額が伸びていた 中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第2-2-30図(帝国データバンクの調査、各群の真ん中の会社の値)をもとに当社が作成。

上乗せできた会社ほど伸びが大きい、という傾向です(2026年版 中小企業白書 第2部第2章)。ただし、上乗せできなかった会社も伸びていますし、もともと交渉に強い会社が上乗せできている面もあります。「値上げすれば儲かる」とまでは言えません。言えるのは、離れられるのを恐れて見送った会社が、守れたものは少なかったということです。

自分の店や会社に当てはめるために、計算もしておきます。売価1,000円の品で、原価が10%上がったとします。価格を据え置いた場合と、5%・10%上げた場合の1個あたりの粗利(売価から原価を引いた残り)は次のとおりです。

原価率30%の例
飲食店など。原価300円→330円
1個あたりの粗利(粗利率)
原価が上がる前700円(70.0%)
価格を据え置く670円(67.0%)
元より4.3%減る
5%上げて1,050円720円(68.6%)
客が6.9%減るまでは据え置きより多く残る
10%上げて1,100円770円(70.0%)
客が13.0%減るまでは据え置きより多く残る
原価率60%の例
仕入れて売る会社など。原価600円→660円
1個あたりの粗利(粗利率)
原価が上がる前400円(40.0%)
価格を据え置く340円(34.0%)
元より15.0%減る
5%上げて1,050円390円(37.1%)
客が12.8%減るまでは据え置きより多く残る
10%上げて1,100円440円(40.0%)
客が22.7%減るまでは据え置きより多く残る

当社の試算。売価と原価率は例です。固定費や、仕入れの量による割引は入れていません。

同じ10%の原価の上昇でも、原価率が高い会社ほど、据え置いたときの痛みが大きくなります。原価率30%なら粗利は4.3%減りますが、原価率60%では15.0%減ります。仕入れて売る会社が値上げを先送りすると、利益の削られ方は飲食店の3倍を超えます。

「客が〇%減るまでは」の数字は、値上げで客が離れても、据え置いたときと同じ粗利を残せる限界です。原価率30%の店が5%上げた場合、客が6.9%減るまでは、据え置くより粗利が多く残ります。値上げした飲食店の9割で売上が落ちなかったという調査と並べると、多くの店にとって、据え置くほうが確実に利益を減らす選択だと分かります。

自分の数字で確かめるときは、「1 − 据え置いたときの粗利 ÷ 値上げ後の粗利」を計算してください。出た割合より客の減り方が小さければ、値上げしたほうが粗利は多く残ります。

もちろん、値上げで取引を失った会社もあります。中小企業庁の調査には「見積を出したあとに契約を打ち切られた」「値上げを打診すると、取引停止やほかの会社への切り替えをほのめかされた」という声が載っています(中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」)。値上げそのものより、上げ方と伝え方で結果が分かれます。ここからは、離れられる店と離れられない店を分けるものを順に見ていきます。

値上げの前 選ばれている理由を確かめる お客様に聞く・注文の記録を見る 上げ幅と上げる品を決める 選ばれる理由の品は量も中身も変えない 値上げのとき 理由と守るものを添えて知らせる 取引先には書面の前に会って話す 値上げのあと 約束したものを守り続ける 来なくなった人を値下げで呼び戻さない
値上げの前に確かめ知らせたあとも守り続ける この記事で順に説明する、値上げの前から値上げのあとまでの流れです。

客が離れるのは値段より理由が見えないとき

同じ値上げでも、理由によってお客様の受け止め方は大きく変わります。日本政策金融公庫が全国の20〜70代の2,000人に、食品の値上げの理由ごとに納得できるかを聞いた調査があります。

値上げの理由に納得できる人の割合

  • 天候不順や災害による不作86.5%
  • 品質の向上76.1%
  • 運送・物流費の上昇72.9%
  • 人件費の上昇70.3%
お客様が見て分かる理由ほど納得されやすい 日本政策金融公庫「消費者動向調査」(2022年1月、全国の20〜70代2,000人、食品)をもとに当社が作成。「包装資材費の上昇」には、納得できない人が49.1%いました。

天候や品質のように、お客様が自分の目で分かる理由は納得されやすく、包装資材費のように、お客様から見えない理由は納得されにくい結果でした(日本政策金融公庫「消費者動向調査」2022年1月 p.13)。人件費は、2022年には仕方がないと受け止める人が半分ほどでしたが、2025年の別の調査では62.5%に増えています(MS&Consulting 2025年8月、1,041人)。働く人の給料を守るための値上げは、受け入れられやすくなっています。

ここから分かるのは、お客様は値段そのものより、なぜ上がったのかが分からないことに不満を持つということです。理由が分からなければ、「便乗して上げたのでは」と疑われます。お知らせに理由を書くときは、お客様が自分の目で確かめられる言葉で書きます。「原材料費の高騰により」とだけ書くより、「仕入れているお米の値段が、この1年で〇割上がりました」と書くほうが伝わります。

i-SHOT がご支援している会社にも、理由の伝え方を変えた例があります。介護や生活用品を扱うある会社は、仕入れ値が上がった消耗品を値上げするとき、「原価が上がったので」という言い方をやめました。サービスを良くした分の単価の見直しとして、値上げとサービスの向上を一緒に伝えています。仕入れ値の上がった分だけを載せるか、粗利を基準に決めるかも話し合ったうえで、お知らせでは細かい計算を前に出さず、価格を上げるという方針を先に言い切りました。値上げのあとの客数の変化は、まだ追えていません。それでも、理由を「こちらの事情」から「お客様が受け取るもの」に置き換えたことで、伝える側が言い訳をせずに済むようになりました。

上げ幅と上げる品はお客様が選ぶ理由を外して決める

どれだけ上げるかの目安になる調査もあります。日本政策金融公庫の同じ調査では、「10%までの値上げなら許容できる」と答えた人が、どの品目でも6割を超えていました。野村総合研究所が2026年7月に関東の2,988人に聞いた調査でも、許容できる値上げ幅は「5〜10%未満」がいちばん多く、50.7%でした(野村総合研究所 2026年8月)。

これは上限の決まりではなく、多くの人が受け止められる幅です。原価の上がり方が大きくて10%を超えるなら、一度に上げず2回に分けるか、量や中身を変えた新しい品を加える方法もあります。

上げ幅より大事なのは、どの品から上げるかです。全品を同じ割合で上げると、お客様がその店を選んでいる理由になっている品まで値段が変わります。野村総合研究所の同じ調査では、加工食品が値上げされたとき、安いほかのメーカーに乗り換えると答えた人が41.7%、そのまま買い続けると答えた人は22.1%でした。ほかで代わりが見つかる品は、値上げすると乗り換えられやすいのです。

品の種類上げ方
原価が大きく上がった品先に上げる。理由がお客様に伝わりやすい
お客様がその店を選ぶ理由になっている品量・中身・担当の人を変えない。値段を上げるなら、変えないことを一緒に伝える
ほかの店でも同じものが買える品上げ幅を小さくする。乗り換えられやすい

商品を届けるサービスのある会社では、「見積もりが他社より高くて選ばれない」という悩みが出ました。話し合って決めたのは、価格の差を問題にしないことです。同じ品はほかからも買えるのに付き合い続けてくれるお客様は、少しの価格差では切り替えません。価格で選ぶお客様を追うより、サービスに価値を感じてくれるお客様に手間をかけることにしました。上げ幅を考えるときも、どのお客様に残ってほしいかを先に決めると迷いが減ります。

この表の真ん中の行、お客様がその店を選ぶ理由になっている品が何かを、値上げの前に確かめておく必要があります。

非難されにくい値上げは商品と売り方の設計で決まる

ここまでは、今の品の値札をどう書き換えるかの話でした。けれど、値上げで非難を浴びにくい会社は、値札を書き換える前に、商品と売り方の形を変えています。お客様が「上げられた」と感じるのは、同じものに、選ぶ余地なく高い値段がついたときです。選べる形にすれば、同じ単価の上がり方でも受け止め方が変わります。

打ち手なぜ非難されにくいか・向く場面
上位の商品・サービスを新しく出す今の品の値札は変えず、手間や量を足した上位を出します。高いほうを選ぶのはお客様なので、勝手に上げられたとは感じません。今の品に足せる手間・量・サービスがある店に向きます
まとめ買い・セットで1個あたりを安くする1回の買い物の金額は上がり、お客様には得をした実感が残ります。日持ちする品、くり返し使う品に向きます
安い選択肢を残して段階を増やす値段で選ぶ人の行き場を残したまま、上の段階を選ぶ人から単価を上げます。内容に差をつけられるサービスに向きます
値上げと同時にひとつ足す盛り付け、居心地、対応など、小さくても目に見えるものを1つ添えます。「少し高くなったけど、やっぱりここは良い」と感じてもらえます
価値を見える化してから上げる産地、手間、検査など、値段の理由を売り場や見積書に書きます。理由が見えると、値段だけで比べられにくくなります
今のお客様は一定期間据え置く長く付き合ってくれたお客様の値段を守り、新しいお客様から新しい値段にします。契約や会員で今のお客様が分かる商売に向きます

実際の例もあります。中小機構の J-Net21 に載っている、50坪ほどの食品店の取り組みです。仕入れている和菓子の原価が上がり、一度は値段を据え置いたものの、再び上がったため小売価格を約20%上げました。同時に陳列を大きく広げたところ、売れる個数は減らず、「美味しい和菓子」と評判になって大きく伸びました。同じ店では、同じ商品の値上げをできるだけ避け、冷凍できる肉や鮭などに限って大量パックを加えました。メニューの提案と保存の仕方も掲示しています。買い上げ点数は下がりましたが、1回あたりの売上が上がり、近くの飲食店という新しいお客様も増えました(J-Net21「顧客単価をアップする。中小・零細店舗の大型店対策」)。

段階を増やす形は、動画配信の Netflix が分かりやすい例です。日本では、広告つきの月額890円、スタンダードの月額1,590円、プレミアムの月額2,290円の3段階を用意しています(Netflix ヘルプセンター「プランと料金」、2026年10月確認)。安い入口を残しているので、値段で迷う人も離れずにすみます。値上げと同時にひとつ足す打ち手は、日本政策金融公庫も、盛り付けの工夫や店内の居心地、サービスの改善などの「プラスアルファ」を1つ添えるだけで、拒否感は大きく減ると勧めています(日本政策金融公庫「『値上げが怖い』を乗り越える」)。

上位の商品を出す打ち手と、今のお客様を据え置く打ち手は、i-SHOT がご支援の中で勧めている考え方です。どちらも、値札を書き換えるより先に、お客様が選んでくれている理由を厚くすることから始めます。何を厚くすればよいかは、今のお客様に聞けば分かります。

値上げの前に今のお客様が選んでいる理由を確かめる

私はこれまで、多くの経営者の方と「お客様はなぜうちを選ぶのか」を一緒に確かめてきました。そこで毎回驚くのは、お客様が挙げる理由と、経営者が思っている強みが食い違うことです。経営者は品ぞろえや値段の安さを挙げ、お客様は「電話に出る人がいつも同じ」「頼んだ翌日に届く」と答える。長く続けていることほど、お客様がそれを理由に選んでいると気づけません。

値上げで削ってはいけないのは、その当たり前の中にあります。仕込みに手間をかけた一品、いつも同じ担当者が出てくる安心、急な注文にも応える納期。値上げに合わせて量を減らしたり、担当者を替えたり、対応を遅くしたりすると、お客様は値段より先にそこで離れていきます。逆に、選ばれている理由を守ったまま値段だけを上げれば、お客様は「この店でなければ」と思い続けてくれます。

地域で長くサービスを続けてきたある会社の社長は、選ばれている理由を聞かれて、「安全」「安心」「長くやってきた」としか答えられませんでした。注文の多くは、社名を名指しした電話です。それなのに、お客様がなぜその会社を名指ししたのかは、言葉になっていませんでした。この状態で値上げをすると、どこを守ればよいか分からないまま、量や対応を削ってしまいかねません。

確かめ方は難しくありません。

  • 長く通ってくれているお客様や、取引が長く続いている取引先に、「なぜうちを選んでくださっているのですか」と直接聞く
  • 注文の記録から、くり返し頼まれている品や、指名の多い担当者を見る
  • 口コミやお礼のメールで、お客様が褒めている点を書き出す

こうして出てきたものが、値上げしても変えずに守るものです。値段や機能では比べられずに選ばれ続けている会社が、お客様の中に何を残しているかは、Apple やスターバックスの例で、価格だけで選ばれない理由を確かめることができます。

値上げは黙って上げずに知らせる お客様向けの例文つき

値上げを知らせると、かえって目立って離れられるのではないか。そう考えて、告知をせずに上げる、あるいは値段はそのままで量を減らす店もあります。知らせた店と黙って上げた店で、その後の客数を比べた調査は、調べた範囲では見つかりませんでした。ただ、お客様がどちらを望んでいるかを聞いた調査はあります。

野村総合研究所の調査では、「商品は変えず、理由がきちんと説明された上での値上げ」を支持した人が24.7%でした。量を減らすと明示したうえでの「内容量を少し減らして価格を据え置く」を支持した人は9.2%です。黙って量を減らすやり方には、さらに厳しい声があります。リサートが2026年9月に、量を減らした値上げに気づいた443人に聞いたところ、その商品を「すでにやめた」「やめたい」が合わせて3割台後半、「変わらず買い続ける」は13%でした(リサート 2026年9月)。どちらもお客様に聞いた意識の調査で、実際の行動を記録したものではありません。それでも、黙って変えたことに気づいたお客様が離れやすいことは読み取れます。

お知らせには、次の5つを入れます。

  1. いつから
  2. 何が、いくらからいくらに
  3. 理由(お客様が確かめられる言葉で、短く)
  4. 値上げしても変えずに守るもの
  5. これまでのお礼と、これからもお越しいただきたいこと

多くのお知らせは3までで終わっています。お客様が読んで「それでもこの店に来よう」と思えるのは、4と5があるときです。店頭の貼り紙と、メールやLINEのお知らせで、同じ中身を伝えます。

文面は、よく見かける型をなぞらないことをお勧めします。よくあるお知らせは、理由の主語が「当社の原価」で、最後は「ご理解ください」とお願いで終わります。i-SHOT がご支援している会社と話し合ってきたのは、その逆です。会社の主役はお客様なので、値上げの理由もお客様が受け取るもので書き、値上げすることは言い切ります。

よくあるお知らせi-SHOT が勧めるお知らせ
原材料費の高騰によりお客様に続けて届けたいもの、良くしたものから書く
値上げだけを知らせる値上げと、新しく足すものを一緒に書く(便乗に見せない)
ご理解賜りますようお願い申し上げます「価格を改めます」と言い切り、お願いで終わらせない
原価の内訳や他店の値段に触れる新しい価格と時期は決まった事実として短く添える
お客様向けの例文(定食屋の場合)

11月からの価格について

いつも当店に足を運んでいただき、ありがとうございます。

当店は、毎朝取るだしと、炊きたてのご飯を、おなかいっぱい食べていただく店です。この先もそれを続けるために、11月1日から価格を改めます。日替わり定食は850円から920円になります。

あわせて、11月からは小鉢を日替わりで2種類から選べるようにします。ご飯のおかわりは、これまでどおり無料です。

これからも、仕事の合間にほっとできる一食をお出しします。

理由の中心は「仕入れ値が上がった」ではなく、「お客様に何を届け続けるか」です。仕入れ値の話を書いてもかまいませんが、主役にはしません。美容室なら「担当の美容師とカットにかける時間」、小売店なら「品ぞろえと、相談に乗る時間」のように、届け続けるものと新しく足すものを、自分の店に合わせて書き替えてください。お客様に聞いて確かめた、選ばれている理由をそのまま書けば足ります。

取引先に発注を減らされないための値上げの伝え方

会社や店を相手に売っている場合は、お客様向けとは進め方が変わります。取引先は、値上げを受けて自分たちの予算や売値を組み直さなければなりません。一斉に書面を送るだけでは、相手は社内の説明に困り、ほかの会社の見積を取り始めます。

伝え方の順番は次のとおりです。

  1. 売上の大きい取引先から、書面より先に担当者が会って話す
  2. 相手が来年度の予算や価格を決める前に申し出る
  3. 理由を、相手が自分の会社の上司に説明できる資料にして渡す
  4. 値上げしても変えないこと(品質の検査、納期、担当者)を約束する
  5. 話がまとまってから、正式な書面を送る

時期について、「何か月前に知らせる」と決めた法律や国の指針はありません。中小企業庁の価格交渉ハンドブックは、発注する側が翌年度の予算を決める前や、定期の価格改定・契約更新の時期に申し出るよう勧めています(中小企業庁「価格交渉ハンドブック」 p.20)。中小企業庁の調査には、「値上げ前に2か月かけて説明し、正式な通知のあとはすぐに合意され、円滑に価格改定ができた」という会社の声も載っています。

取引先との力の差が気になって、言い出せない会社もあるでしょう。同じ調査では、取引を止められるのを恐れて交渉を申し出なかった、または辞退した会社が約7.2%ありました。2026年1月に施行された取引適正化法では、対象になる取引で、協議に応じずに発注する側が一方的に代金を決めることが禁じられました。値上げを相談すること自体は、正当な申し出です。

取引先への書面も、考え方は同じです。相手の会社が受け取っているもの、これから足すものを先に書き、価格は決まった事実として書きます。取引先は社内で説明しなければならないので、上昇の内訳は別紙の資料にまとめて渡します。

取引先向けの例文(会って話したあとに送る書面)

2027年4月からの価格について

平素より格別のお引き立てをいただき、誠にありがとうございます。先日ご相談させていただいた件について、改めてご案内いたします。

当社は、出荷前の全数検査と、ご注文から3営業日での納品で、貴社の生産を止めないことをお約束してまいりました。この体制をこれからも続け、来年度からは検査の記録を出荷ごとにお渡しいたします。そのために、2027年4月ご注文分より、別紙のとおり価格を改定いたします。上昇の内訳は、別紙の資料にまとめております。

ご不明な点は、担当の〇〇がうかがいます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

値上げのあと、しばらく注文が減ることはあります。中小企業庁が集めた声には、プラスチック製品をつくる会社の「交渉のあと約1か月は受注が減る」という話がありました(内閣官房 会議資料(中小企業庁のフォローアップ調査) p.9)。一社の話ですが、減ったからといってすぐに値段を戻さず、約束した品質と納期を守りながら様子を見ることが大切です。

来なくなったお客様と取引先は値下げで呼び戻さない

どれだけ丁寧に伝えても、値上げのあと来なくなるお客様はいます。そのとき迷うのが、追いかけて呼び戻すか、追わないかです。値上げのあと離れたお客様に連絡した会社としなかった会社を比べた調査や、離れたお客様が戻った割合を測った調査は、調べた範囲では見つかりませんでした。分かっているのは、お客様がどんなときに離れやすいかという調査までです。

そこから考えると、呼び戻すために値下げをしたり、その人にだけ元の値段で売ったりするのは避けたほうがよいでしょう。残ってくれたお客様との値段が食い違い、値上げの理由として伝えたことが本当ではなかったように見えてしまいます。

連絡するなら、値段ではなく、守っているものを伝えます。

  • 長くお付き合いのあった方には、これまでのお礼と、変えずに続けていることを短く伝える
  • 取引先には、値上げの理由を改めて説明し、相手の困りごと(予算・売値)に合わせた注文の仕方を一緒に考える
  • それでも合わない方は追わない。値段より安さを求める方と、選ばれている理由で来てくださる方は、もともと違うお客様です

他社との価格差を気にしないと決めた、商品を届けるサービスの会社も、離れた相手を値下げで呼び戻してはいません。呼び戻さなかった結果を数字で追えているわけではありませんが、値段を合わせに行かないと決めたことで、手間をかける相手がはっきりしました。

値上げは、自分の店や会社が何で選ばれているのかを確かめ直す機会でもあります。選ばれている理由がはっきりすると、値段で比べられることが減っていきます。

お客様が選び続けている理由を見つけ、値段で比べられない店や会社にしていく進め方を、セミナー動画にまとめています。

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お客様が確かめられる理由を添えて知らせ、選ばれている理由を変えずに上げる。この2つを守れば、値上げのあとも、長く来てくれたお客様や取引先とのお付き合いは続けられます。