※取材にもとづく編集記事です

VOL.007 人材・アウトソーシング 公開 / 更新

部下の本音は
社長が聞きに行かないと出てこない

ふつうは 若手の本音は、上司が待っていても上がってこない。

この会社は 社長が自分から不満を聞き出し、直すべきものを直す。

会社のLINEグループに、読んだ本の学びを夜に流していた。すると「夜に通知が鳴るので、やめてほしい」と言われた。言ったのはメンバーで、言われたのは株式会社ACT-Rの代表取締役、河野泰佑さんだ。この声は、河野さんが自分から聞き出したものだ。「ぶっちゃけ俺のことどう思ってる?」と尋ね、自分と会社への不満を定期的に聞く。それをネガティブミーティングと呼び、出た声のうち直すべきものを直していく。営業の経験がない若手を受け入れ、何者でもなかった人が営業で収入を得られるようにする。そのために選んだやり方だ。

株式会社ACT-R。セールスプロモーション事業(通信催事)、セールスアウトソーシング事業(訪販、コール)、人材紹介、動画編集。本社は東京都品川区で、渋谷と福岡に事業所がある。メンバーは50名(2026年10月)、売上規模は2億円程度。2023年8月設立。

業種
セールスプロモーション事業(通信催事)/セールスアウトソーシング事業(訪販、コール)/人材紹介/動画編集
所在地
〒141-0031 東京都品川区西五反田8丁目1-13 GBS-E-8号
メンバー
50名
売上規模
2億円程度
設立
2023年8月
拠点
本社(品川区西五反田)・渋谷事業所・福岡事業所
話を聞いた人
河野 泰佑(代表取締役)
株式会社ACT-R 代表取締役 河野泰佑さん。紺のスーツに青いネクタイで、窓辺の壁の前に両手を組んで立っている

辞めていく若手の6割は、上司に本音を言えていなかった

不満があっても、若手はそれを上司に言わないまま辞めていく。働きがいのある会社研究所が2026年8月、直近3年以内に自分の意思で辞めて転職した20〜30代330人に聞いた調査では、前職の直属の上司に意見や悩みを率直に伝えることが「できていなかった」人が61.5%いた(「どちらかといえば」を含む)。

辞めるときも、本当の理由はほとんど伝わらない。同じ調査で、本当の退職理由をすべては伝えなかった人は70.9%。伝えなかった理由でいちばん多かったのは「本音を伝えても改善されないと思ったから」(41.5%)だった。

1対1の面談を始めても、それだけでは足りない。サーモスが2025年に1on1をしている上司と部下600人に聞くと、部下の49.0%が「本音で話せていない」と感じていた。上司のほうは、部下が思っているより話せていると見ている。スコラ・コンサルトが2024年に社員100名以上の会社の5,161人に聞いた調査では、上司との面談で本音で話せていると答えた一般職は55.6%、部下は話せていると見る管理職は70%だった。

辞めた若手と、1on1をしている部下の本音

  • 前職の上司に意見や悩みを率直に伝えられていなかった(自分から辞めて転職した20〜30代)61.5%
  • 本当の退職理由をすべては伝えなかった(同上)70.9%
  • 1on1をしていても「本音で話せていない」と感じる部下49.0%
不満は、上司が待っていても上がってこない上2本は働きがいのある会社研究所「退職と上司への本音に関する調査」(2026年8月、N=330)、下はサーモスの調査(2025年6月、1on1をしている上司と部下 N=600)をもとに当社が作成。

社長が自分から「ぶっちゃけ俺のことどう思ってる?」と聞きに行く

白い長机を挟んで、向かい合って話すACT-Rのメンバー。手前の人が身を乗り出して紙を指さし、奥の人が頬に手を当てて聞いている
メンバーどうしで話し合うようす。

本音が上がってくるのを待たず、自分から聞きに行く。きっかけは尊敬する先輩の経営者の言葉だった。そばに置く人は、いい話だけでなく、耳の痛い話も言ってくれる人にする。そして話の最後には必ず「俺に思っていることや、会社に思っていることはないか」と悪い話を聞き出す。河野さんはこれをそのまま真似た。

ぶっちゃけ俺のことどう思ってる?とか、会社に対して不満はないか、ということを定期的に聞くようにしました。

河野 泰佑

なぜ定期的なのか。人間関係でも恋愛でも同じだという。不満は溜まりに溜まって爆発すると、取り返せない。だから小さいうちに、話しやすい場で出してもらう。

もちろん、僕も聞いていて気持ちよくはないです。それでも、代表としての責務だと思っているので、そこは向き合いたい。

河野 泰佑

ネガティブミーティングは、全員とはしていない。近いメンバーとはよくしていて、頻度はメンバーによって月に1回だったり週に1回だったりする。全部が全部を直せるわけではない。それでも、直すべきところは直していく。

「社長が何をしているか分からない」と言われたら、ほかの人から話してもらう

会議室のように長机を並べた部屋で、ACT-Rのメンバーが机を囲んで話している。机の上にはノートと図を書いた紙がある
部屋に集まって話し合うACT-Rのメンバー。

ネガティブミーティングでは、どんな声が出るのか。冒頭の夜のLINEのような細かい話から、社長が何をしているか分からない、話しにくいからご飯に行く時間が欲しい、チームで動いている感じが欲しい、といった声まで出る。

聞いた声には、一つずつ手を打ってきた。

社長が何をしているか分からない。SNSのストーリーを見ても筋トレしかしていないように見える。そこで、社長の仕事をほかの人から話してもらうようにした

チームで動いている感じが欲しい。そこで、営業のメンバー全員で研修をし、集まる機会を作った

もっと距離を近くしたい。そこで、ミーティングの回数を増やした

面と向かっては話しにくい。そこで、名前を出さずに意見を入れられる匿名ボックスを作った

声を受け止めるときの考え方は、「自分以外みんな師匠」という言葉だ。会社の行動指針にも「我以外、みんな師」と書いてある。新人やインターン生の言うことにも学ぶところがあると考えて接する。

何を言われても、学びに変えて、いい関係になるのであればいいと思っています。

河野 泰佑

ネガティブミーティングで出た声と、直したこと

  • 社長が何をしているか分からない社長の仕事を、ほかの人から話してもらう
  • チームで動いている感じが欲しい営業のメンバー全員で研修をし、集まる機会を作る
  • もっと距離を近くしたいミーティングの回数を増やす
  • 面と向かっては話しにくい名前を出さずに意見を入れられる匿名ボックスを作る
全部は直せなくても、直すべき声には手を打つ

不動産営業の1年目、先輩と社長に向き合ってもらえたのが嬉しかった

なぜ一人ひとりと、ここまで向き合うのか。河野さんの答えは短い。

結論、僕がやられて嬉しかったからです。

河野 泰佑

河野さんは正社員として勤めたことがない。大学院を途中でやめて芸能の仕事に飛び込み、2019年に夢をあきらめた。芸能の活動で借金は600万円ほどになっていた。芸能の先輩に誘われ、業務委託で不動産の営業を始める。1年目は家を持たず、路上生活をしながら、人と会うときだけ身なりを整えてアポイントに向かった。完全な成果報酬で、不動産は決済まで時間がかかる。1年間、ほとんど成果は出なかった。

そのあいだ、先輩は商談の録音を聞き、事務所に戻ればフィードバックをくれた。その会社の社長も向き合ってくれた。社内に、何でも言える人が1人はいた。2年目に1件、2件と契約が取れ、ようやく生活できるようになった。

独立して会社を作ったとき、河野さんはそれを自然とやっていた。不動産の営業をしていたころに、こうしてもらえて嬉しかった、これがあったら不安だった。そう感じたことを会社に盛り込み、その一つがネガティブミーティングになった。

残ってそこで頑張りたい、この会社の神輿を担ぎたいと思ってもらえるのは、人間関係だと思うんです。

河野 泰佑

メンバーが不安や不満を話せる場があると、続ける人が増える。ACT-Rの営業は、続けさえすれば成果が上がっていく、再現性のあるやり方と研修を用意している。続ける人が増えれば、収入を得られる人も増える。ただ、それを自分の手柄にはしない。成果の半分は本人たちの努力で身についた主体性だという。

入社前に1時間、ただその人を知るためだけに話す

不満を聞き出す前に、まず相手を知る。インターン生や最近入ったメンバーまで、必ず1対1で話す時間を取る。名前はゼロミーティング。入社前に1時間、どんな生い立ちか、なぜ営業をするのか、将来の夢は何かを、話せる範囲で聞く。ただその人を知るための時間だ。

続いて、仕事を始める前に1時間のファーストミーティングで、仕事に向かう考え方を話す。それからは10日に1回、あるいは1か月に1回、「最近どう?」と声をかける。

ゆっくり話そうよ、だけでもやっぱり嬉しかったんです。そういう場で、実は、と本音を出してくれることがあります。

河野 泰佑

採用でも、入る前と入ってからのギャップを少なくする。営業をやりたいという人には、お客様に断られる、立ち仕事できつい、気持ちが落ち込むといった、起こりうることを先に全部伝える。人が辞める理由の一つは、入る前の思いと入ってからの現実の差だと考えているからだ。それでもやりたいという人を迎える。

入社してからの1対1の時間

  • 入社前 ゼロミーティング(1時間)生い立ち、なぜ営業をするのか、将来の夢を、話せる範囲で聞く
  • 仕事を始める前 ファーストミーティング(1時間)仕事に向かう考え方を話す
  • そのあと 10日〜1か月に1回「最近どう?」と声をかける
不満を聞き出す前に、まず相手を知る

「社長ならどうしますか」と聞かれたら、入りすぎている合図

向き合うことには、やりすぎの失敗もある。河野さんは細かい。返信が遅くないか、言葉が間違っていないかを見てしまう。向き合うのも、ネガティブミーティングも、やりすぎるとメンバーの主体性が育たず、社長ありきの組織になる。社長が抜けたときに回らない。いまもその失敗はあると、河野さんは話す。

入りすぎに気づく手がかりは、メンバーの質問の仕方だ。「この資料はどう作るんですか」と聞く人と、「やってみたので確認してもらえますか」と聞く人。後者はまず自分で手を動かしているが、前者はまだ人の答えを待っている。

お客様に信用してもらうにはどうしたらいいですか、ではなく、泰佑さんだったらどうされますか、と聞かれることがあるんです。そこでビッと来ますね。あ、ちょっと僕、入りすぎていたかな、と。

河野 泰佑

ACT-Rには、評価の基準になる「株式会社自分」という言葉がある。自分が社長だったらどうするかを考えて動く、という意味だ。河野さんが目指すのは、1年目やインターン生の意見でも「何を言っているんだ」と退けず、受け止められる組織だ。

右向け右で全員が右を向くのは、ちょっと怖いんです。こういう理由で左でもいいんじゃないですか、と言いやすくて、それを受け入れるメンバーがいる関係が理想です。

河野 泰佑

トップダウンになりすぎている関係は、いまもまだ残っている。そこは改善が要るところだと、河野さん自身が認めている。

メンバーの質問の仕方で、入りすぎに気づく

  • 「この資料はどう作るんですか」まだ人の答えを待っている
  • 「やってみたので確認してもらえますか」まず自分で手を動かしている
  • 「泰佑さんだったらどうされますか」社長が入りすぎている合図
向き合いすぎると、社長がいないと回らない組織になる

数字で見る株式会社ACT-Rの違い

ACT-Rの男性4人が、窓と緑の壁のあるオフィスの一角に、スーツ姿で並んで笑顔で立っている
スーツ姿で並ぶACT-Rの4人。

設立は2023年8月。メンバーは50名(2026年10月)、売上規模は2億円程度。

入る人の多くは営業の経験がない。年収300万円以下の人を、ペルソナとして掲げている。採るかどうかは経験の有無でなく、人柄で見る。最初の目安は面談の前のLINEのやりとりの丁寧さと返信の速さだ。

入ってからの面談は、入社前のゼロミーティングが1時間、仕事を始める前のファーストミーティングが1時間、そのあとは10日から1か月に1回。

固定給と歩合を組み合わせた通信の営業では、きちんと働けば手取りで40万円前後になる。リーダーになると50万円ほどになる。

若手の6割は上司に本音を言えないまま辞める(働きがいのある会社研究所、2026年)。その中でACT-Rは、社長が自分から不満を聞き出す場を持っている。

この先、通信の営業で力をつけた人が、より大きな収入を目指せる人材紹介の営業に進めるよう、社内で完結する流れを作っている。

  • 50名メンバー(2026年10月)
  • 2億円売上規模(程度)
  • 1時間入社前に、ただその人を知るために話す時間
  • 2023年8月に設立
一人ずつ向き合うための数字

ACT-Rのやり方を、自分の会社で使うための3つのこと

一つめ。本音は待っていても上がってこない。社長が自分から「自分に、会社に、不満はないか」と聞く場を定期的に持つ。不満が溜まって爆発する前に、小さいうちに出してもらえる。

二つめ。出た声には、直したことを見せて応える。社長が何をしているか分からないならほかの人から話してもらう、話しにくいなら匿名で入れられる箱を置く。全部は直せなくても、直したものが見えれば、次の声も出てくる。

三つめ。向き合いすぎにも気をつける。相談が「どうすればいいですか」から「社長ならどうしますか」に変わったら、入りすぎている合図だ。向き合うことと任せることのちょうどよさは、メンバーの質問の仕方で測れる。

この記事を読んで、自分の会社にも「これって普通じゃないのかも」と思う何かがあるかもしれない、と感じた方へ。

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