社員が辞めない会社は、残ってほしい人が残る理由を知っていて、その理由を増やし続けている会社です。辞めると言われてから引き止めても、結果はほとんど変わりません。理由を聞いても「別の仕事に挑戦したい」と返ってきて、本当のところは分からないまま次の募集を出すことになります。

退職した人の半分以上は、本当の理由を会社に伝えていません。この記事では、厚生労働省の離職率の数字と退職理由の調査をもとに、辞める理由の本音のつかみ方と、残っている社員に残る理由を聞く問い、残る理由を増やす手の打ち方を紹介します。給料を大きく上げる前に、残っている社員から今日聞けることがあります。

社員が辞めない会社の作り方は3つの順番で進める

社員が辞めない会社の作り方として、1on1、評価制度、柔軟な働き方など、たくさんの施策が紹介されています。ただ、自社の社員がなぜ辞めるのか、なぜ残っているのかが分からないまま施策を足しても、当たるかどうかは運しだいです。順番は次のとおりです。

  1. 1辞める本当の理由をつかむ退職のときに聞いた理由をそのまま信じない
  2. 2残っている社員に残る理由を聞く辞めた人より、残っている人のほうが正直に具体的に話せる
  3. 3残る理由を増やし辞める理由を減らす聞いた答えを、会社の決まりや毎日の仕事に組み込む
施策を選ぶ前に自社の理由をつかむ 1と2で理由が分かると、3で何をすればいいかが自然に決まります。

小さな会社の離職率は低いが新卒の半分は3年以内に辞める

まず、自社の離職が多いのか少ないのかを確かめておきます。意外に思われるかもしれませんが、社員の少ない会社ほど人が辞めるわけではありません。厚生労働省の雇用動向調査では、2025年の1年間の離職率は、社員5〜29人の企業で12.2%でした。企業の規模別で最も低い数字です(厚生労働省「令和7年 雇用動向調査結果の概況」。常用労働者5人以上の事業所が対象。企業規模別の数字は e-Stat 第38-1表)。

ところが、新卒で入った社員に限ると逆になります。2022年3月に大学を卒業して就職した人が3年以内に辞めた割合は、社員5〜29人の事業所で52.0%、1,000人以上の事業所で27.0%でした(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」。事業所の規模別)。

1年間の離職率(企業の規模別、2025年)

  • 社員5〜29人12.2%
  • 30〜99人14.0%
  • 100〜299人17.9%
  • 1,000人以上12.5%

大卒の新卒が3年以内に辞めた割合(事業所の規模別、2022年3月卒)

  • 社員5〜29人52.0%
  • 30〜99人41.9%
  • 1,000人以上27.0%
全体では辞めにくいが入って数年で辞めやすい 厚生労働省「令和7年 雇用動向調査」「新規学卒就職者の離職状況」をもとに当社が作成。2つの調査は数え方が違うため、棒の長さはそれぞれの中でだけ比べてください。

小さな会社は、長く勤めている人は辞めにくい一方で、入って数年の社員が辞めやすいと読めます。自社で辞めているのはどんな人か、入って何年目の人かを、まず振り返ってみてください。

退職のときに本当の理由は聞けない

辞める社員に理由を聞くと、多くの社長は「別の仕事に挑戦したいそうだ」「家庭の事情らしい」と受け取ります。ところが、それが本当の理由とは限りません。エン・ジャパンが転職サービスの利用者5,168人に聞いた調査では、54%が「会社に伝えなかった本当の退職理由がある」と答えました(エン・ジャパン「本当の退職理由」調査。2024年5〜7月、インターネット調査)。

別の職種にチャレンジしたい(22%)

人間関係が悪い(46%)

伝えた理由と本当の理由は違う 本当の理由を伝えなかったわけで最も多かったのは「話しても理解してもらえないと思った」(46%)。エン・ジャパンの調査をもとに当社が作成。

厚生労働省の雇用動向調査でも、転職した人が前の会社を辞めた理由で最も多いのは「その他の個人的理由」(20.4%)でした。続く理由は、女性では労働時間や休日などの労働条件(12.9%)と職場の人間関係(11.5%)、男性では給料などの収入(9.9%)です。理由の多くが「その他」に入るのは、本人も言葉にしにくいからだと私は考えています。

辞めると言われてからの引き止めはほとんど効かない

辞めると切り出した時点で、本人の中では多くのことが決まっています。米国のGallupの調査では、自分から辞めた人の52%が「上司か会社が何かしていれば辞めずに済んだ」と答えました。そして51%は、辞める前の3か月に、仕事の満足度や将来について誰からも話をされていませんでした(Gallup「This Fixable Problem Costs U.S. Businesses $1 Trillion」、2019年。回答者数はページに書かれていません)。

手を打てる時間話を聞くならここ 引き止めほとんど効かない 入社辞めると言う退職 不満がたまる 辞める前の3か月、51%は誰からも話をされていない
入社から退職までのどこで話を聞くか 数字は Gallup の調査(2019年)から。辞めると言われたあとに使える時間は、ほとんど残っていません。

手を打てる時間は、辞めると言われる前にあります。話を聞くのは、辞めると言われる前です。この順番に変えるだけで、社長に届く話の中身が変わります。

社長には言いにくいことは社長以外の人が聞く

人間関係の悩みや、社長のやり方への不満は、社長に向かっては口にしにくいものです。小さな会社では、社長と社員の距離が近いぶん、なおさら言えません。本音を聞きたいときは、聞く人を分けてください。直属の上司、社長以外の役員、社外の人、名前を書かない用紙など、話す相手を選べるようにしておくと、社長の耳には入りにくい話も届くようになります。

残っている社員に残る理由を聞く

同じような仕事は、ほかの会社にもあります。それでも、わざわざこの会社で働き続けている社員がいる。私は、社員が残っている理由の中に、この会社にしかないものがあると考えています。ほかの会社でも買える商品を、お客様がわざわざこの会社で買ってくださる理由と、根は同じです。

辞めた人の理由は、辞めたあとでは正直に聞けません。残っている人の理由なら、今日、具体的に聞けます。人が職場に残る理由を調べた研究では、残る理由は「職場の人とのつながり」「仕事や会社が自分に合っていること」「辞めると失うもの」の3つで説明できました。この3つを見ると、仕事への満足や会社への愛着だけでは分からない離職まで見通せました(Mitchell ら, 2001, Academy of Management Journal。65のサンプル、約4万3千人をまとめたJiang ら, 2012でも同じ傾向。当社が言葉に置き換えて紹介しています)。

残る理由を聞く6つの問い

研究の3つの理由に沿って、残っている社員に次の問いを聞いてみてください。面談で使うときは、答えを評価に使わないことを先に伝えます。

聞く問い分かること
この会社で働き続けている一番の理由は何ですか会社が気づいていない残る理由
最近、お客様に喜ばれてうれしかった場面はありますか仕事が自分に合っていると感じる場面
いちばん頼りにしている同僚は誰ですか職場の人とのつながり
ここを辞めたら、何がいちばん惜しいですか辞めると失うもの
入ったころと比べて、いま足りないものは何ですかこれから辞める理由になりそうなこと
社長には言いにくいけれど、変えてほしいことはありますか本人からは出にくい本音(社長以外の人が聞く)

答えは、会社の残る理由と辞める理由として集めます。何人かに聞くと、同じ言葉が何度も出てきます。その言葉が、この会社の残る理由です。

中堅が辞める会社は4年目以降の残る理由を聞く

「新卒3年目までは残るのに、4年目以降の中堅が次々に辞める」という悩みもよく聞きます。入ったばかりの社員が残る理由は、教えてもらえる、できることが増える、といったものになりがちです。仕事を覚えた4年目以降は、それだけでは残る理由になりません。任される範囲、お客様からの信頼、後輩からの頼られ方など、育ったあとの残る理由が要ります。

中堅が辞めている会社では、4年目以降の社員に6つの問いを聞き、入ったころの答えと比べてください。「入ったころと比べて、いま足りないもの」への答えに、次に辞める理由が出てきます。

残る理由を増やし辞める理由を減らす

聞いた答えを、残る理由と辞める理由に分けて並べます。残る理由は増やし、辞める理由は減らす。どこから手をつけるかは答えしだいですが、多くの会社で出てくる3つについて、手の打ち方をお伝えします。

残る理由を増やすお客様に喜ばれる頼れる同僚任される仕事 辞める理由を減らす長い労働時間人間関係給料の決め方
聞いた答えを2つに分けて両方から手を打つ てんびんの中の言葉は、多くの会社で出てくる答えの例です。自社で聞いた答えに置き換えてご覧ください。

お客様に喜ばれた場面を社員に届ける

残る理由を聞くと、「お客様に喜ばれたとき」という答えがよく出てきます。残る理由の中でも、お客様に喜ばれた実感は、会社の工夫で増やしやすいものです。ところが、お客様からのお礼や感想は、受け取った人や社長のところで止まりがちです。お客様の声は、担当した社員の名前と一緒に、全員に届けてください。

お客様の声で働く人の意欲が変わることは、研究でも分かっています。大学の奨学金の募金を電話で集める担当者に、奨学金を受けた学生と5分間話してもらったところ、1か月後には電話をかけている時間が142%、集めた金額が171%増えました(Grant ら, 2007, Organizational Behavior and Human Decision Processes。数値はGrant 本人の解説から。この研究が測ったのは意欲と成果で、離職は測っていません)。自分の仕事が誰の役に立っているかが見えると、人は同じ仕事に向かう力が変わります。

残ってほしい人を言葉にして採用からそろえる

残る理由が分かったら、その理由で残ってくれる人を採用でも探します。中小企業白書2026年版では、求める人材像を明確にできている会社のうち、2019年以降に採用した人の7割以上が今も在籍している会社は50.3%でした。明確にできていない会社では41.9%です(中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第2-3-6図。資料は帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」。同時に見られる関係で、どちらが原因かまでは分かりません)。

求める人材像は、能力の一覧より、残っている社員の答えから書くほうが合います。「お客様に喜ばれるとうれしい人」「同僚を頼り、頼られるのが好きな人」のように、この会社に残る理由を持てる人を言葉にしておくと、面接で聞くことも決まります。

労働時間と人間関係の辞める理由は社長が先に減らす

辞める理由で多い労働時間と人間関係は、社員本人の努力では減らせません。残業が続く部署、特定の人に仕事が集まる部署、人間関係の相談が出ている部署は、社長が先に手を入れてください。中小企業庁の資料では、直近3年の定着率が7割以上の小規模事業者は、残業が減った会社で59.8%、増えた会社で48.5%でした(中小企業庁調査室「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」RIETI BBLセミナー資料。同時に見られる関係です)。

辞める理由に給料が出てきたら、額を上げる前に、今の給料の決め方が社員にどう聞こえているかを確かめてください。業績しだいで報いると伝えている会社では、社員に安心して聞いてもらえる報酬と業績の伝え方が手がかりになります。

お客様に喜ばれた場面から、社員が判断に使える基準と、この会社に残る理由をつくる進め方を、セミナー動画にまとめています。スキマ時間でご覧いただけます。

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目標は残ってほしい人が残る会社

「人が辞めない会社はかえって危ない」という声もあります。辞めてほしい人ほど辞めず、まともな人から辞めていく。社長が本当に困るのは、人が辞めることそのものより、残ってほしい人が辞めていくことのはずです。

残っている社員の言葉から残る理由を知り、その理由で働ける人を採用し、辞める理由を先に減らす。残る理由がはっきりしている会社では、その理由が合わない人が去ることも、会社が選んだ結果として受け止められます。