中小企業の賞与は、「何に報いる賞与か」を先に決め、そのあとで総額(原資)と一人ひとりへの配り方を決めます。順番を逆にして「今年はいくら出せるか」から始めると、毎年の額に理由がなくなり、社員には社長の気分で決まっているように見えてしまいます。
この記事では、社員30人までの会社の賞与の相場、営業利益から総額を決める方法、配り方、渡すときの伝え方、就業規則に書くこと、社員20人の会社の計算例までを順に紹介します。
賞与は何に報いるかを先に決めてから総額と配り方を決める
賞与は社員にとって、「会社が自分の1年をどう見たか」が形になる年に2回の場面です。だから決める順番が大切です。
- 1何に報いる賞与かを決める会社の利益を分け合うのか、社員の働きに報いるのか。報いるなら、どんな働きか
- 2総額(原資)の決め方を決める営業利益の何割を賞与に回すか。利益が出なくても払う分をいくらにするか
- 3一人ひとりへの配り方を決める全員に同じように配る分と、働きに応じて差をつける分の割合
- 4渡すときの伝え方を決める額の理由を本人の働きとお客様の場面で伝える
社員30人までの会社の賞与の相場は月給の約1か月分
まず気になるのは、ほかの会社がどのくらい出しているかだと思います。厚生労働省の毎月勤労統計調査では、2025年の年末賞与について、社員5〜29人の事業所のうち賞与を出したのは73.6%でした。出した事業所の1人あたりの平均は296,405円で、毎月の給与の約1.05か月分です(厚生労働省「毎月勤労統計調査」2026年2月分速報 特別集計。社員5人以上の事業所が対象。平均は、賞与を出した事業所の全員で割った額で、受け取っていない人も含みます)。
夏の賞与もほぼ同じ水準で、社員5〜29人の事業所では283,954円(0.99か月分)でした。東京都が都内の社員10〜49人の会社に聞いた調査では、賞与を出した会社の年間の合計は1人あたり846,493円(2.8か月分)でした(東京都「中小企業の賃金・退職金事情」令和7年版)。
相場は目安にとどめてください。同じ額でも、何に報いた額なのかが社員に伝わっているかどうかで、受け取ったときの気持ちはまったく変わります。
総額(原資)は営業利益に連動させて毎月見せる
賞与の総額を営業利益に連動させる会社は多くあります。経団連の会員企業への調査では、賞与の総額を業績に連動させている企業が53.6%で、そのうち61.8%が営業利益を基準にしていました(経団連「2025年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」。回答は349社で大企業が中心)。営業利益は社員の毎日の働きがいちばん表れやすい利益だからです。
利益が出なくても払う分と利益に応じて増える分に分ける
神戸の珍味メーカー、伍魚福の社長は、自社の賞与の仕組みを公開しています。賞与には生活を支える意味もあるので、営業利益がゼロでも払う定額分を毎月積み立て、そこに営業利益の21.5%を足して総額をつくっています。この総額は毎月の全体会議で社員に報告し、3〜8月分を冬の賞与に、9〜2月分を夏の賞与にあてています(山中勧(伍魚福社長)「営業利益と連動する賞与〜成長支援制度その4〜」。現在の運用は未確認)。
- 利益に応じて増える分営業利益の一定割合。毎月積み立てて社員に見せる
- 利益が出なくても払う分生活を支える定額分。基本給の1か月分など
伍魚福の社長は、見直す前の仕組みについて、賞与を減らすと利益が増える関係にあったため、会社と社員のあいだで利害がぶつかっているように感じられていたかもしれない、と振り返っています。総額のルールを決めて毎月見せておくと、社員は賞与を自分たちの働きの結果として受け取れるようになります。
決算賞与は利益が見込めたときの臨時の賞与
決算賞与は、決算の前に利益が見込めたときに臨時で払う賞与です。期末までに各人に額を通知し、通知から1か月以内に払うなどの条件を満たすと、その期の損金にできます(国税庁 タックスアンサー No.5350)。税務の扱いは税理士に確認してください。
何に報いるかはお客様に喜ばれた行動に置く
私は毎月の基本給を「安心して働いてもらうための約束」として先に示し、賞与のうち報いる部分を「お客様に喜んでいただけた数と深さ」につなげることをお勧めしています。社員が日々の仕事の中で「今日のあれは、賞与につながる」と実感できる単位にするためです。売上や利益だけに連動させると、社員が自分で動かせない数字で評価されることになります。
お金だけで報いると自分から動く気持ちが下がることがある
意外に思われるかもしれませんが、お金で報いるほど、人が自分から進んで取り組む気持ちが下がる場合があります。米国のデシらは128の実験をまとめて分析し、成果に応じてお金などのごほうびを渡すと、ごほうびがなくても自分から取り組む時間が減る傾向を示しました。一方で、言葉で認めると自分から取り組む行動は増えていました(Deci, Koestner & Ryan, 1999, Psychological Bulletin。対象は主に子どもや大学生の実験で、職場の賞与そのものを調べたものではありません)。
職場や学校の約21万人を対象にした別の分析では、仕事の「量」は報酬とよく結びつき、仕事の「質」は本人の意欲とよく結びついていました(Cerasoli, Nicklin & Ford, 2014, Psychological Bulletin。当社が言葉に置き換えて紹介しています)。お金は量を押し上げますが、お客様に喜ばれる仕事の質はお金だけでは生まれにくいということです。
だからこそ、賞与の額の理由をお客様に喜ばれた具体的な場面で伝えることが効きます。お金と一緒に「あなたのこの仕事を、会社はこう見ている」という言葉を渡すと、賞与は仕事の質を認める知らせとして受け取られます。
一人ひとりへの配り方は安心の分と報いる分に分ける
総額が決まったら、一人ひとりへの配り方を決めます。中小企業では次の組み合わせがよく使われます。
| 配り方 | やり方と向いている会社 |
|---|---|
| 基本給の何か月分 | 全員に同じ月数を掛ける。分かりやすく、安心の分に向いている |
| 評価に応じた | 評価ごとに点数を決め、総額の残りを点数で割る。報いる分に向いている |
| チームへの配分 | 店舗や部門ごとの成果で総額を分け、そのなかで貢献に応じて配る。協力して働く会社に向いている |
私のお勧めは、「基本給の1か月分程度を安心の分として全員に」配り、残りを「お客様に喜ばれた行動の評価」で配る組み合わせです。伍魚福も基本給1か月分の基礎賞与に、評価に応じた点数の分を足す配り方をしています。
個人で競わせるよりチームの中で貢献に応じて配るほうが成果が上がる
賞与で差をつけるなら個人の成績で、と考えがちですが、研究ではチーム単位の報酬のほうが成果を押し上げていました。146の研究、約3万2千人をまとめた分析では、個人に向けた金銭報酬も成果を上げていましたが、チーム単位の報酬の効果のほうが大きく、全員に同じ額を配るより、チームの中で貢献に応じて配るほうが成果は高くなっていました(Garbers & Konradt, 2014, Journal of Occupational and Organizational Psychology。当社が言葉に置き換えて紹介しています)。
評価の差は小さく始める
東京都の調査では、社員10〜49人の会社の25.4%は査定をしておらず、差をつけている会社でも「10%未満」が最も多くなっていました。最初は小さな差から始め、差の理由をお客様の場面で説明できる範囲にとどめるのが安全です。
渡すときは額の理由をお客様の場面で伝える
額をどう決めても、明細だけを渡すと社員は額の大きさしか受け取りません。賞与を渡すときに、本人の働きとお客様の場面を一言添えてください。
業績が良ければ、賞与を出します
基本給1か月分は毎回約束します。それとは別に、お客様に喜んでいただけた分を賞与で報います
今期は業績が悪かったので減額です
業績の責任は私にあります。そのなかで、あなたが〇〇様に喜ばれた仕事には、この分で報います
評価はBなので、この額です
〇〇様からいただいたお礼の電話が、今回の評価の理由です
経営計画発表会などで給料と業績の話を全社員にどう伝えるかは、社員に安心して聞いてもらえる報酬と業績の伝え方でご覧ください。
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セミナー動画を見る就業規則には額を書かず時期と決め方を書く
賞与は法律で支払いが義務づけられているものではありません。厚生労働省のモデル就業規則も、賞与を出すなら、支給の時期、算定の基準、査定の期間、支払い方法を就業規則に書いておくよう示しています(厚生労働省「モデル就業規則」第50条の解説)。社員が10人以上いる事業場では、就業規則をつくって労働基準監督署に届け出る義務があり、賞与の定めをするならそこに書きます。
| 書くこと | 書き方の例 |
|---|---|
| 支給の時期 | 原則として7月と12月に支給する |
| 査定の期間 | 夏は前年10月〜3月、冬は4月〜9月の働きをもとにする |
| 算定の基準 | 会社の業績と、各人の勤務成績・お客様への貢献を考慮して決める |
| 支給の対象 | 支給日に在籍している社員に支給する |
| 支給しない場合 | 会社の業績が著しく悪化したときは、支給しないことがある |
「支給しないことがある」と書いておけば、業績が悪い年に賞与を出さなくても違法にはなりません。ただ、安心の分まで止めると、社員は業績の責任を自分たちが負わされたと受け取ります。査定期間の途中で入社した社員を在籍期間に応じてどう扱うかも、あわせて書いておいてください。
額や月数まで就業規則に書くと、それを下げるときに社員の同意や合理的な理由が必要になります。東京都の調査でも、社員10〜49人の会社で賞与の額まで規定に書いているのは11.1%で、65.3%は支給の時期だけを定めていました。額の決め方は社内の基準として持ち、社員には毎回の説明で伝える会社がほとんどです。
パートや契約社員にも、同じように業績への貢献に応じて払う賞与なら、同じ貢献には同じ賞与を払う必要があります(同一労働同一賃金ガイドライン)。社員の働き方が混ざっている会社は、対象と基準をそろえて書いてください。就業規則の書き方は社会保険労務士に確認することをお勧めします。
社員20人の会社で計算するとこうなる
社員20人、基本給の平均が25万円、半期の営業利益が2,000万円の会社を例にします。数字は説明のための例で、割合は会社ごとに決めてください。
| 手順 | 計算 |
|---|---|
| 安心の分 | 基本給1か月分 × 20人 = 約500万円(利益が出なくても払う) |
| 報いる分 | 半期の営業利益2,000万円 × 15% = 300万円(毎月の会議で積み上がりを見せる) |
| 総額 | 500万円 + 300万円 = 800万円(1人あたり平均40万円) |
| 報いる分の配り方 | お客様に喜ばれた行動の評価を点数にする(例:A=3点、B=2点、C=1点)。300万円を全員の点数の合計で割り、1点あたりの額を出す |
| Aの社員の例 | 基本給25万円 + 3点 × 1点あたり約7.5万円 = 約47.5万円 |
この例では1人あたりの平均が約40万円で、社員5〜29人の事業所の平均(約30万円)より少し高くなります。利益が出なかった半期は報いる分が0になりますが、安心の分の500万円は約束どおり払います。点数をつけるときは、売上の順位ではなく、お客様からいただいた言葉や、お客様のために動いた場面をもとにしてください。
お客様の行動から社員に追ってもらう数字や評価の項目を決め直したいときは、人が離れないKPIの決め方と明日の会議で使える3つの問いをご覧ください。